8ヶ月

この8ヶ月の間で変わったことと云えば、


コートを脱いで長袖になって長袖を脱いで半袖になった、
深夜0時より後には眠らなくなった、
本を ほとんど 読まない、
猫のお見舞いに日帰り飛行機で実家へ、
セザンヌがもこりんペンを駆使して描いた果物画を見た、
同じ部署で働く狂人の同僚が S県の果てにある工場へと左遷された、
パンが嫌いになってごはんが好きになって、またパンが好きになった、
夥しい数のシャツとパンツとタオルを洗った、
親愛なるSMRくんが この世からいなくなって、
もう二度と電話が鳴らないしメールがこない もう二度と 会うことが できない、
「結婚したの」って どうしてもどうしてもどうしてもどうしても
言えなかったことの嘘が バレることも バレることを恐れることも もうない、
その代わり、わたしたちの約束が果たされる日も、もう二度とやって来ない、
確かに存在していた想いや意志や約束は、死んでしまえば消滅するのだろうか?
それとも永遠にその姿を留めたまま ただ存在し続けるのだろうか?
それをどう捉えるかは わたしが決めるべきなのだろうか?
ぐらぐらと視界が揺れる真夏の出雲の海を眺める、
WRと天王洲アイルのT.Yハーバーへ 行った、
くるみを床に撒き散らした、
スカートを焦がして 煙草をいっさい吸わなくなって、
煙草を吸わないでいてまるで平気な自分のことを寂しく思い、
まるみと二人組のねことドアラの仲間にゴマちゃんが加入し、
苦手にしていた鍼治療に行ったら痛くなかった、
近所に住む男に付き纏われる、
フルーツの中では何が好きかと言うと
わたしは 桃とぶどうと梨とグレープフルーツが 好きです、
わたしたちが次に住む あたらしいおうちは 風通しがよくて清潔だといいな、
ねこたちがベランダからの風景を気に入ると いいな、
わたしたちが想像する通りの静かで幸福な暮らしがあればいいのに、

職場の狂人女が目の前から消えて、
今 会社が恒常的に非常に知的で清潔で平和的で都会的な、無菌室的空間となり、
あの金切り声や、喧しいバカ笑いの声は、もう何処からも聞こえず、
皆に安心と笑顔が戻り、優しい心や思い合う心が戻り、
わたしの中からも 人を蔑む心が 消え、
何から何まで 完璧に幸福なのに、
物足りない 狂気が足らない

多分 あの女の狂った様は、
此処にいるわたしたち 人間全員にとって いちばん隠匿したい恥ずかしい部分だった
わたしたちが 産まれそうになるたびに無意識に真っ先に殺戮している、
傲慢で 自惚れが強く 自分が正しくなかった場合の可能性を考えない、
利己的で弱さに耐える力のない、醜いわたしたち自身の化身だった
あの激情振りは、まるで古代の歌舞伎だった
この世でまかり通ってはならない、ありえない光景を傍観したい願望

昨日からWRはひとり名古屋に帰省してる
わたしの両親は仕事で東京にやってきている

この夏は 打ち切り時を見誤っている
それなのに あと3ヶ月で2010年が終わってしまうなんてね