季節は春で、わたしはとても忙しい

月曜日。週明けの〆切りだった、部署内で行う計画書のプレゼンが、いちばん厄介な箇所だけ残して未完成のままだったので、出社する前からすでに いつのタイミングで部長から「雪、おい、アレ書いてきたか。今からやるぞ!」と持ちかけられるかとビクビクしていたのだけれども、朝出社するとまた例の招待状の件で、第2信というか新たに湧き出てきた40組のセレブリティ共に、同じ招待状を送ることになったので、そうと決まればほとんど一瞬のわき目も振らず、終日作業に追われ、プレゼンのことも未完成の計画書のことも忘却の彼方に飛んでいってしまった。

それにしても、間に入っている代理店の手際と頭があまりにも悪い。そもそも今回扱う案件の主役というのが、かなり人間離れした、特殊な階層に属する方々なので、それを扱う代理店も特殊。普段あまり接したことがない、不可解な仕事ばかりをして仕事を増やす。あまりの手際の悪さに、夕方には 部長が ついにブチ切れた。「おい、雪、あのクソジジイたち何処まで埒が明かないんだ!ちょっと俺 ここはひとつ恫喝しておく!」と、恫喝宣言したかと思うと、わたしの受話器を奪いとって、ほんとうに恫喝していた。‥‥と、わたしは本来恫喝賛美派では絶対にありえないし、激情型のひとも、乱暴な口の利き方も大きらいだけど、この代理店の奴らに係わってしまっては「おれはこれから恫喝する」と決意して恫喝に望む、その心の気高さに胸を打たれずにはいられない。しかし、「恫喝する」と宣言してから相手を恫喝したひとを、ちょっと初めて見たかもしれない。とりあえず19時までノンストップで作業を進め、友紀ちゃんとの夕食の約束があったので、化粧崩れを押さえる間もなく、慌てて電車に飛び乗った。明日も どうせ 遅くまでかかる。だから月曜くらい、友達とゆっくりお酒を飲みたい。

新宿駅の南口で待ち合わせ。カウンターにカクテルの瓶がずらりと並ぶ、バブリーな和食屋で、サラダや湯葉、鶏のグリルなどを食する。やはり、カウンターのような高いテーブルに長い脚のスツールに座ると、わたしは必要以上に酔っ払うようだ。お酒なんてほとんど飲んでいないはずなのに、頭の中がふわふわくらくら、浮遊している。