偶然について

景気が悪い、景気が悪いってニュースで言うけど、物心ついてからずっと 景気の悪い時代しか生きていないから わからない。遥か彼方 こどもだった頃、バブルの時代の記憶もあるけど、テレビに映るコマーシャルも 水商売のような服装のアイドルも 全然いいとは思えなかった。だから景気の良い時代への憧れもない。とはいえ、努力しても現状維持すら叶わないかもわからない、という今やこれからの現実には、さすがにくら〜い気持ちにさせられる。歴史を眺めると 最大多数の民衆は 何時の世もこうして不条理で報われない現実を生き永らえてきたことがわかるのだけれど、ひとたび刷り込まれた幻想(ex.努力はひとを裏切らない、等)から脱却するのは そう簡単では無いのだろう。

火曜の夜、ちょっとした偶然が。仕事を終えた帰り道、服を見るために渋谷の街を歩いていると、公園通りの雑踏で いつもわたしの髪を切ってくれる美容師の、アシスタントの女の子(2人いるうちの1人)に偶然会った。2日後の木曜日 ちょうどカットの予約を入れていたので「木曜日に行くね」などと立ち話して、お別れ。

それからしばらく渋谷の服屋をあちこち覗き、最寄り駅に帰ってきて 駅近くのスーパーで夕食のお買い物をしていると、またアシスタントの女の子に偶然遭遇。こんどは渋谷で会った子とは 別の、2人いるうちのもう1人のほう。美容院の何らかの陰謀で、わたしが行く先々にアシスタントを配置して待ち構えているのか、とも思ったけれど、相手側から眺めてみると、わたしのほうが 休日のアシスタントを待ち伏せする、新手のストーカーかもしれない。

WRから仕事で遅くなるとの連絡が。キッチンは着々と整備されているものの、料理する気にはなかなかなれず、結局 くるみのスコーンと焼き鳥、という狂気の組み合わせで孤独の夕食を堪能。

真夜中に帰ってきたWRに「夕飯 何食べた?」と訊ねられたので、「スコーンと焼き鳥」と正直に回答すると、「ヨネスケが来なくて良かったね」などと言う。ヨネスケは、スコーンに焼き鳥、など目ではないくらいのありえない夕食シーンを百遍も二百篇もくぐり抜けてきた猛者なので、そんな心配は要らない。要らないけれども、ヨネスケなら 1本しかない焼き鳥の貴重な肉片を「味見」と称して強奪したに違いないので、やはりヨネスケが来なくて良かった。しかし あたかも もったいないオバケや閻魔さまのように、ヨネスケが手抜き夕食を戒める存在として その立場を確立しているのはよく考えたら凄いことだ。たまたま夕食を豪華に誂えた日などに「これならいつヨネスケが来ても大丈夫」などと心で感じたりすることも。子供の頃、こんな辺鄙な場所にヨネスケ(の撮影クルー)は来ない、と心の底ではわかっていたけれど、いざ大人になり、都会のマンションの居住者となると、今度は都会過ぎることが裏目に出て、ヨネスケは決してやって来ないのだ。ヨネスケは永遠に来ない。