銀座から新宿へ

友紀ちゃんとランチの約束。昼前に銀座で会う。三越の前のライオンの前。夏はいつも カーテンを引き開けるように唐突に訪れるのに、秋は 空気のなかに少しずつ浸透してくる。銀座は、化粧の濃い初老の女性が多い街だ。若い女の人も、そこそこ。表参道や青山や銀座には、きれいな女の人が多いと言う。それには全面的に賛成だけれど、そして 表参道や青山と違って 銀座を歩く女の人の服装の趣味は(おしゃれではあっても)かなり保守的というのもわかるけど、いちばん違うのは、一緒に歩いている男の人だと思った。青山のほうで見掛ける“きれいな女の人”は、大学や会社で知り合ったような、似た者同士で歩いている男女が多いけれど、銀座にいる女の人は違う。水商売風に見えない、会社で働いているような女の人でも“へんにお金を持っていそうな”格好の男の人と連れ立っているのが目立つ。恋人の選び方が、そもそも違うのかもしれない。

わたしは 何度来ても銀座の道がわからない。レストランに行く道も、行きたいデパートに行く道も、いつもまったくわからないので、友紀ちゃんに案内してもらうことになる。この日はつばめグリル(また!)でお昼を食べて、バーニーズニューヨークで服を見て、H&Mの行列を眺めたり ファミリアのくまに抱かれて写真を撮ったりしながらまた少し街の中をぶらぶらして、お茶を飲んだ。たのしい土曜日の昼下がり。友紀ちゃんは、お姉さんに赤ちゃんが生まれたばかりなので、明日の初対面をとても愉しみにしていたよう。恋愛をして、結婚して、そしていつかは子供が生まれる。正午を回って歩行者天国になった銀座の人ごみを歩きながら、友紀ちゃんとふたり そんな世の習いの不可思議さを思い、信号をわたる。

友紀ちゃんとお別れして、日の暮れた街を新宿へと移動する。とあるライブハウスで、WRのライブが行われる。この日の為に WRはドラムの個人練習にも足繁く通っていたわけだ。他のバンドメンバーも、みんな大学時代の音楽サークルの後輩。「好きだからやる」以外に何の説明もつかないことを、みんなただただ楽しそうにやっているので、わたしも数年ぶりにバンドでもやりたくなってくる。わたしのパートはサックス。いちばん得意な楽器だから。サックスと言っても、ジャズでもファンクでもない、もっと可愛い音を鳴らすバンドがいいんだけど、誰と一緒にやろうかな。楽器が得意な友達が沢山いすぎて、あれこれと頭の中でバンドを結成するだけで、とても楽しい。WRのドラム(本業はベースなので、ドラムについては初心者)も前のライブのときより危なっかしいところも無くなって、とても上手になっていた。

ライブのあとは、8人くらいでお酒を飲みに。“人生で通過したいちばん恥ずかしいCDは何か”という話題で盛り上がる。WRや ベースの男の子は、相当恥ずかしい音楽も沢山聴いてきたようだ。わたしが人生で最初に親にねだって買ってもらったCD(というか当時はカセットテープ!)は チェッカーズだった。幼稚園のとき。それで小学校に上がる頃には「チェッカーズをロックと思って聴きこんでいた自分が恥ずかしい」という意識が強烈に芽生え、せっかく買ってもらったカセットテープを窓から棄てた。なんて早熟な女の子だったことだろう。

ふらっと入った小滝橋通り沿いの居酒屋は、家族経営で切り盛りしている店で、外装はボロボロだけど、料理はどれも手作りでとても美味しかった。終電ぎりぎりまで飲んで、帰宅。休みの日は、好きなひととしか喋らないでいいので 嬉しい。