ねこをも目に入らぬほど重篤

雨の水曜日。まいにち凍えそうに寒いけど、この日の空気の冷たさは格別だった。こんなに寒く感じるのに、空から落ちてくるのは みぞれにもならないただの雨。冬にいちばん寒い日は、雨の日だと思った。雨がふわふわの雪に変わると、途端に世界があたたかくなる。こどもの頃に見たような、うさぎの背中みたいにあたたかそうな雪景色が見たい。

さいきん、誘われるがまま何となく、同じ部署だけどセクションが違うSちゃんと一緒にランチに行くようになった。今までは(慣例上、または行きずり上)40歳の先輩などを交えた 同じチームの何人かで食べることになっていて、楽しくないとは云わないけれど、居心地がいいとはぜったいに言えない昼休みだった。なので、ともだちのように会話ができるSちゃんと一緒に昼を過ごすようになって以来、まったく気楽で食物の消化もすこぶる良好。部長の物真似もSちゃんにはさいこうに受けがいいし、もう自分のチームは見捨ててこのままSちゃんと癒着して 昼休みに潤いをもたらそうっと。

会社を後にする頃も まだ冷たい雨が降りつづいている。この日は会社帰りに美容院。髪をそろえた。このまま年末年始になだれ込むと 伸びすぎた髪で新年を迎える羽目になるので、無事に予約できてよかった。美容院では いつもWRのことをあれやこれやと訊ねられる。誰もWRに会ったことはないのだけれど、本人不在の鏡越しの会話の中で、WRは今や人気絶大になってしまった。どんなことを喋っているのか、美容院を出るといつも忘れてしまうけど、起きるとか眠るとか食べるとかに纏わる日常的なエピソードを披露しているうちに、美容院という小世界のなかで、勝手にWRの名声が轟き響き渡ってしまった。

鼻のあたまに髪の切れくずを沢山つけたまま、大急ぎで帰宅して今宵も夕食作り。残りものと炒めものなので 完全手作りのはずなのに8分くらいで出来上がった。母から WRとわたしに誕生日の贈り物が届いていたので、お礼の電話などもする。この夜WRは 普段と変わらずげんきなのだけど、頭をぼーっとさせているのか、何となく喋っていても生返事で、内容がうまくかみ合わない。ねこ人形を両手に携えて ねこに憑依して語りかけても、普段と違って 反応が とても 薄い。なんかへんだな、と思いながらも気にしないでいると、眠る直前になってやっと「実は 歯がいたいのです」と真相を告白してくれた。はやくよくなるといい!