ふゆやすみ記5◆銀座線横断

この日はしっかり朝に起きる。去年の大晦日は 神楽坂から御茶ノ水まで散歩したので、今年も31日は散歩だね、となんとなくそういうことになっていた。今年は銀座線に沿って歩いてみることにする。銀座線の駅は 渋谷から始まって、青山、赤坂、銀座、上野、浅草、と これぞ東京の中心、と言い切れる 魅力的な街が沢山ある。渋谷まで徒歩で行くことも考えたけど、先が長いので渋谷駅からスタート。わたしはブーツじゃなくて、ナイキのスニーカーを履いて、暖かい下着もいつもより1枚余計に着て、暖かくして街に出た。バッグも、もちろんリュックサック。途中で読むように文庫本が入っている。デジタルカメラも持っていく。冬の空は水色でどこまでも高く、わくわくする。


(写真は後ほどまとめて貼りんす)


◇渋谷-表参道-外苑前-青山一丁目「安っぽいおシャレ気取りが好みがちなゾーン」

まずは渋谷駅から明治通りに出て、歩き始める。此の辺りは買い物等で日常的に行ったり来たりしているので、殊更に“散歩している”気はしない。通り沿いのお店は、7割方が年末休業で閉店。自動車の通りだけは相変わらず途切れないけど、それでも渋滞している様子もなさそうだし、なにより舗道を歩くひとが極端に少ない。コートの中は随分暖かくしてきたけれど、ビル風がつよいためか、寒さで耳がキンキンと痛くなったので、コートのフードを被ってトコトコと歩く。


赤坂見附-溜池山王-虎ノ門「官僚的ゾーン」

赤坂御所の両端に警備員がひとりずつ立っていた以外、赤坂の辺りに歩行者は誰もいない。傍に大きな車道があるとはいえ、空気が清清しくてとてもいいお昼。ホテルニューオータニの辺りに、ぴかぴかのハイヤーが沢山停まっている光景も、気分がきりっとしてとてもよいと思う。永田町の近くで、マクドナルド以外で殆ど唯一営業していた 韓国料理店でランチ。わたしたち以外、お客が誰もいなかったので、入店した途端 韓国人店員の苦笑いで迎えられ、少し気まずい。日本人なら、こういうとき お客の前で笑ったりはしない(できない)と思い、文化の違いというか、日本人の礼儀の観念が不自然なのかもしれないけど。小さな鍋に熱々のチゲが入った定食。凄く辛い。

赤坂のホテルが林立する辺りを過ぎたゾーンに入ると、初めて未踏の地が現れた。山王や虎ノ門は、わたしは仕事をしていても わたしには全然縁が無かった。WRは 歩いている最中、一駅に一企業の割合で「あ、ここは就活のときに来た会社だ」等と素早く反応。ミシェル・フーコー似の外人(単にツルッパゲというだけ)などを横目に見ながら「今年さいごの知の巨人だね」などとくだらないお喋りに興じる。しかし山王や虎ノ門は、高級な産婦人科で高級な新生児が誕生する、という印象しかない。東大やハーバードに入ることがエリートだ、なんていうのはとんだ勘違いで、勉強したひとは誰でも入る権利があるのだから そんなの民主主義的平等にすぎないし、そんなのあまりにもつまらない。真のエリートは バカでもブスでも山王病院の特別室で生まれることができた新生児。または馬小屋生まれの父なし子とか。自分の意志がまったく介在しない、決して修正の効かないことが神聖さというものだ。


◇ 新橋-銀座-日本橋「歴史を感じさせはするものの“Hanako”の侵食も免れていないゾーン」

段々と見慣れた風景が近くなって、新橋の駅前に出た。人通りがぐんと多くなる(それでも普段の4割くらい)。新橋は 此の頃 小奇麗なホテルが幾つか出来てはいるけれど、銀座の薄汚いところがぜんぶ風に吹かれて吹き溜まったみたいな、町の外れ特有の埃っぽさ、貧相さが目立つ。新橋を抜けて次は銀座。此の辺りもまた、歩き慣れた通り。銀座の目抜き通りに近づくにつれて、本日いちばんの人手となる。昼食をとった時間以外、結構な早さで歩行し続けてきたけど、このくらいの距離ではぜんぜん疲れない。お茶も飲まない、買い物もしない銀座には長居も無用ということで、日本橋方面に続けて向かう。やはり街からちょっと外れただけで、格段に歩行者が少なくなって、道がやけに広く感じる。ここまで来るとさすがに座りたくなったので、日本橋の上島珈琲で読書とお茶。この時点で時刻は夕方で、これから 上野、浅草まで歩くと完全に夜になってしまうので、日本橋丸善で今年さいごの本を買って(ジュネ「花のノートルダム」の河出版新訳)、銀座線に乗って渋谷へと戻った。この日は写真を沢山撮った。来年も 次の年も、大晦日には散歩することになると思う。田舎道を歩くとあっという間に疲労して 歩くことが苦行のように感じられるけど、東京の街は何処まで歩いても全然飽きない。どんどん景色が変わって、色んな街が色んな姿を見せるから。

夜の年越しの夕食は、実家から送られてきていた出雲蕎麦。それにエビの天ぷらを作って添える。お酒は買わないで、WRと一緒にぶどうジュースとお菓子を買って、珍しくテレビなどを見ながらのんびり過ごす。こどものとき以来の紅白歌合戦。すごく不真面目に見てしまったけど、さいごの氷川きよしの歌がさいこうに良くて、WRと「ズンドコ!」「き よ し ー !」と相当に盛り上がる。未だにジョンレノンを崇拝していたりする、Tシャツを着て、4人が横並びになった棒立ちのアーティスト写真ばっかり撮るような日本のロックバンドなんか、きよしに比べたらロックの足許にすら及んでいないことを確信。きよしの歌って ほんとうに さいこう!ろくでもないことも相変わらず沢山あった今年だけど、キャロルキングのライブといい、タバコジュースのライブといい、Uさんの「もののけ姫」「ゲゲゲの鬼太郎」といい、きよしのズンドコ節といい、今年も素晴らしい音楽に恵まれたことに感謝。

紅白が終わって、唐突に「行く年来る年」に場面が切り替わる、あまりのテンションの違いにうろたえるあの瞬間もしっかりと味わい、すみやかに就寝。皆様 今年も大変お世話になりました!