買う家族

土曜日に20時間眠って、やっとふつうに稼動できた。この頃の自分自身の眠りぶりは“疲労”というより単に病気(の初期症状)で、土曜日に死んだように眠ることで、ようやく平日仕事を休まないでいられるように制御されているのかも。本も読めない映画も見れない、それ以前に家事もままならないことに、ひどく罪悪感を憶える。平日 精一杯労働したら あとは大威張りでゴロ寝できるような、社会的・文化的・さらには人生全般への探究心を満足させるような意義のある仕事(仕事だけれど 使命と呼ぶに近いもの)をしていれば、そのような自負を持っていれば、この種の罪悪感とは無縁になるだろうか?とはいえ どんな仕事であれ、自分の仕事に120%満足していられるような部類のひとは、それはそれで問題があるような気もするけれども。

お昼前に表参道に出て、先週の誕生日プレゼント買いのつづき。一ヶ月以上も遅れ、セールにも遅れ、お店の中はすっかり春物商品で埋め尽くされている。miumiuで革がやわらかい、やわらかバッグを買ってもらう(オムツのような形なので、オムツバッグとも呼べるけど)。

WRは 女性物のお店に入ると「ゆっくり選んでイーヨ」と言う言葉とは裏腹に、いつも一刻も早く解放されたそうな、居心地悪そうなそわそわとした挙動で、談笑するわたしと売り子から 常に一定の車間距離をとり、遠巻きにそれを眺めながら心ここにあらずで放心している。なので この日のmiumiuにおいても、わたしは自分がお店のひとに“言葉巧みに貧乏大学生をかどわかして バイトで貯めた財産でブランド鞄を買ってもらう金満女”風に見られているのではないか、と気が気でならなかった。新作がちょうど入荷したてということで オムツバッグにも オムツピンク、オムツブルー、オムツパープルと色々な色が揃っていたけど、WRのこの日唯一の助言「このピンクはもっと若いひと向けじゃない?君が持つと ぶ り っ こ に 見 え る 」という言葉を真摯に受け止めて、汎用性の高いオムツグレーを選択した。過去にコットンやエナメルのバッグは買ったことがあったけど、ここで革のバッグを買うのははじめて。お店のひとに「雨に弱いので雨の日に使うのはご遠慮くださいね」と注意されたあと、「日光にも弱いので 晴れた日にも不向き」と言われたのがひっかかる。その注意事項を真に受けるとすると、いったいこのバッグはいつ使えばよいのだろうか。

プレゼントの包みを小脇に抱えて、表参道から渋谷まで歩く。途中で昼食を食べて、渋谷ではWRの普段用のお買い物。ネクタイとビジネス靴を買う。WRのスーツ姿はいつもこざっぱりとお洒落。まるで 自宅でのニート装束や休日の予備校生ルックを一網打尽に払拭するかのように。わたしは遂にi-podを買う。壊れたのと同じ巨大で重厚なタイプのが欲しかったけど、何万曲入れたところで、どうせ今回と同じように、入れた曲全部を聴き終えるまえに壊れてしまうのだ。消耗品だと割り切って、何の感慨もなく“nano”という名称の軽薄なタイプを選択したけど、手のひらにちょこんと置いてまじまじと眺めると、あまりの無個性さに赤面してしまう(“classical”のほうは 無個性ながらも、そこまで恥ずかしいとは思わない)

目下のお買い物を終えて、あとは家に帰って本でも読もう、と言い合いながら 帰路についた。高度に資本化された休日を過ごしたあとは 妙に質素に内省的に過ごしたいと思う。WRはクッツェーの「鉄の時代」に続いて「マイケルK」をせっせと読み、わたしはi-podにtobacco juiceとMazzy Starのアルバムをせっせと入れる。良い音楽も悪い音楽も、めちゃくちゃに詰め込んでいた前とは違って、楽しい作業だ。夕食の準備を忘れていたので、タクミくんの北海道土産の無添加鮭フレークをごはんにかけて食べる。美味しい。明日はもう月曜日。(土曜日は眠っている為に)今や日曜日しかない休日は、瞬く間に過ぎ去っていく。

写真で見ても恥ずかしい 恥ずかしいけど有難い↓
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