ノーベル

黴臭い6月が終わり。しごとはとても平坦。とっとと辞めて終わりにしたいこんな日々、と考えると すぐに その衝動をすーっと掻き消す程度の良いことがあり、そうやって わたしの毎日はとても平坦に偽装されているので、つい 小さな悩み事も先送りにされてしまう。このまま続いていくことは、幸福だとも思うし、それを幸福だと思い込んでしまうことが、考えうる限り最大の不幸のようにも思える。カレンダーがどんどん破り捨てられていく。まいにち。まいにち。

WRは何処かのホテルで勤務先の定例キックオフがあるとか何とかで、遅い帰りの日。雨が降りそうで降らない。手首や足首のホネが妙に軋むので、わざと関節を動かすと、コキコキと高く乾いた音が、響く。WRは全然お酒も呑んで来ず、思ったよりも早い時間に帰ってきた。書店に立ち寄ったら「闇金ウシジマくん」の新刊が発売になっていたらしく、お土産に買ってきてくれた。わたしたちは ほんとうにウシジマくんが 大好き。今後のウシジマくんに登場しそうなカモのパターンを想像すると、3歳のこどもの臓器移植や海外渡航費用の為に、メディアを通じて募金を呼びかけた若夫婦が、エゴや見栄に負けて募金を少しずつ使い込んでしまう(「タイトル:移植くん」)とか、婚活パーティーで高嶺の花に一目ぼれして 職業や経歴を偽った三流サラリーマンが デート代捻出の為に闇金に嵌る(「タイトル:婚活くん」)とか。ウシジマくんにピッタリなネタはどんどん湧き出てくる。それだけウシジマくんがリアリズムに富んでいるということだ。WRはウシジマくんの世界に慣れ親しみすぎたせいで、「今回は 小ぢんまりと牧歌的な話だったねえ」「ホロリときた」などと感想を漏らしていたけど、そんなのは単に脳が平和ボケしているだけで、冷静になってみれば全然牧歌的な話なわけない。WR曰く、日本でもっともノーベル文学賞をあげるべき作品が「闇金ウシジマくん」らしい。わたしもちょっとそう思う。

雨だから 通信の速度がひどく遅い。奇妙なかたちの残像。地球上からコンピューターが消滅したら、ロケットや飛行機が空からボタボタと落ちてきて、新幹線と山手線が衝突して、首都高の橋桁も落下するだろうか?日御碕の岸壁にある民家にだけは、コンピューターは作用しないのだろうか。わたしとWRは、いつか日御碕の岸壁で宿泊したいと思っている。もっとも近づくことのできる世界の果ては、その場所なのだ。最新型の除湿機で吸い取っても吸い取っても黴や塵や埃が漂いつづけている。会社辞めて ひとりでしごとがしたい。そして今日みたいな日は 遊歩道まで紫陽花の写真を撮りに行きたい。そうすれば 洗濯物畳みもお料理も、いらいらしないで丁寧にできる。

闇金ウシジマくん 15 (ビッグコミックス)

闇金ウシジマくん 15 (ビッグコミックス)