フルコース 欠落

今日も雨。木曜日で、会社でも家でも特段の出来事はない。あんなにぴかぴかに線路沿いの路肩にあった紫陽花も、いつの間にか植物みたいに萎んだり消滅したり している。“花が咲いてた”というより、シーズン毎に転換されるデパートのディスプレイのようだ。靴が濡れない程度の小雨の朝が好き。夕方も好き。

SMさんと同じ電車に乗って帰って、同じスーパーマーケットで夕食の食材を買って帰った。ベーコンとほうれん草としめじのパスタと、フルーツトマトとモッツァレラのサラダ。WRの帰宅が遅かった5月はまるで自炊をしなかった けれど、この頃はいい加減観念して夕食もきちんと家でつくる。SMさんに 駅を左に出る方にあるスーパーのレジ係に、20代前半の若い女の子だけど 頭から爪先まで熊にそっくりの店員がいるよ、と教えてあげた。比喩ではなくて、ほんものの熊のような 女の子。鮭の切り身をスキャンするのが 似合う。友紀ちゃんからきた携帯メールの用件のあとに「そういえば 最近 まるみちゃんのお洋服増えてるね」と書いてあった。フフフ、まるみちゃんって、とても お洒落。今夜はWRの帰りも早かった。わたしが買い忘れたパンを買って帰ってくれた。WRも「今日は特筆すべきことは何もなかった」と言う。夕食のとき、WRが「そういえば、駄菓子屋に売ってるチロルチョコと コンビニで売ってるチロルチョコは大きさが違うんだけど、何故だと思う?」と得意気に訊いてきたので「コンビニにあるのは バーコード印刷するからちょっと大きいんでしょ」「そんなの とっても とっても有名な話」「WRが知ってることなんて、ぜんぶ、せーんぶ、世界中の 誰でもが とっくの昔から知ってること!!!」と言い放つと、WRは ガーン!となって「あ、あまりにも不愉快・・・」「あまりにも・・あまりにも・・・・」と大ショックを受けていた。ものしりでごめんね!

WRは今夜も勉強。わたしはそれを待つ間に 読書をしながら眠ってしまう。あたらしい生活に憧れを持っている。ずっと自分はひとつのこと以外何も出来ないとわかっていたから、そのたったひとつができなかったら自分がバラバラになってしまうような気がしていたけど、いやだけどしかし それはできることなのだから まったく当たり前に 簡単にできてしまうだろう、という予感が、確信に変貌して きている。それは希望だけど、頭上にキラキラと輝くような種類の希望ではなくて、ひとつのこと以外何も出来ない自分自身とただ地続きにある、空気のように当たり前に存在する希望のこと。まるみちゃんと ねこんこちゃんと ねんねこちゃんが住む国のように、現実の世界のお話ということ。最近フランス料理を食べてない。メインが2つ出てきてグラニテやチーズまで挟むほんとうのフルコースって、いちばん空腹な18歳や20歳の時は、自分にも恋人にもお金がなくて滅多に食べに行けないのに、いつでも食べに行けるような年齢になってしまうと、その頃にはもう胃袋のほうが18歳や20歳の時のようでないために、途中で「もうたくさん」という気分になってしまう。20歳の頃に、50歳のおじさんにご馳走してもらうことが苦痛でない女だったら良かったのかもしれないけど、今も昔もそういうのは一番好きじゃない。家族や 仲良しの友人と フランス料理食べに行きたい。