本の買い方
さむいあめのひ おうちのない ねこちゃんは
おなかをすかして ぶるぶると 紫陽花の下で ふるえています
あまがえるのかぞくは げんきに はねる
たのしいねたのしいねたのしいねたのしいね
ねこちゃん ねこちゃん
美しい六月の晴れた午後 ふかふかと土を踏んだ 綿毛の足も
今では 泥でよごれて濡れて すっかりぺたりとなってしまった
さむいよ くるしいよ さみしいよ さむいよ くるしいよ さみしいよ
はやく てんきになあれ
*
水曜日。仕事を終えて、池袋で待ち合わせ。
この日 巨大な本屋に行くにあたって、御茶ノ水でも新宿でもなく、池袋のジュンク堂でなくてはならなかったのは、かねてWRより「残り僅少本コーナーでツルゲーネフの『処女地』を発見した」、との情報を得ていたから。一週間も経っていたので、予感はしていたけれど、当然のように目当ての本は無く、がっかり。新刊文庫でさえ、うかうかしていると、数ヶ月、数週間で店頭から姿を消したりする。況や エサ箱(僅少本コーナー)をや。
でも、幸福なことに、肩を落としている暇はなかった。同じエサ箱に、チェーホフやポール・ブールジェの品切れ本を発見できたので、それらを買い物籠にうず高く積み上げ 無念を晴らす。
わたしは、断じてコレクターでも、ビブロマニアの趣味もないけど、こういう瞬間ばかりは、レコスケの気持ちがよくわかる。いや、レコスケより、「現実的にすぐに読むもの」だけをシビアに買いたいから、むしろレコガールの気持ちというべきか。
*
地下鉄に乗って、すみやかに神楽坂に帰還して、行きつけのハンバーガー屋で 夕食と読書。
サマセット・モーム「お菓子と麦酒」を読了。
モームの小説は、普及版・新潮文庫のネイビー×エメラルドグリーンから受ける印象がすべてという気がするけど、これはまさかの角川文庫。
通俗小説の高級品。というと失礼な言い草みたいだけど、現在と過去が交錯する物語のなかで、少年期、青年期、老年期それぞれの人間の心の機微だとか 存在が、とても精緻に描かれていて、特に 回想のなかの「16歳の少年」なんて、少なくともホールデン・コールフィールドより、ずっと魅力的とさえ思え、わたしは年に数度 あるかないかの「まっとうな、よい読後感」に包まれることに成功した。
よい読後感などまっぴらごめん、そんな物語は存在意義が不明だよ、と常々悪態をついているのに、たまに真正面からこういう実直な物語に出くわすと、それはそれで楽しい。
- 作者: サマセット・モーム,厨川圭子
- 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
- 発売日: 2008/04/11
- メディア: 文庫
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