書く男、書かない女

こうも雨ばかりが降り続くと、雨に閉じ込められる週末にもすっかり慣れて、うんざりもしない。飯田橋の駅前で落ち合って、友紀ちゃんと日仏学院のなかのブラッスリーでお昼を食べる。
http://www.institut.jp/services/brasserie/

フルコースを出すレストランや、気軽にタパスをつまめるバルまで、外で食べる食事には際限ないスタイルが存在するけど、わたしがいちばん好きなのは、糊の利いたテーブルクロス、ではなく、クロスペーパーが敷いてあるような、ブラッスリーだ。何処のブラッスリーも、プリフィクスの中身はそう変わらない。前菜には、サーモンのサラダや田舎っぽい見た目のテリーヌやキッシュがあり、主菜のほうは、魚ならたいてい白身魚ポワレだし、チキンやビーフならシンプルな網焼きで、フライパンの端で作ったような大味のソースがかかっている。鴨のコンフィがある場合もある。そういうときは、かならず鴨を選んでしまう(鴨は、家で食べられないから‥)

高級店の、技巧を凝らした滑らかなソースや、ぴかぴかの有機野菜が添えられた凝ったメインも時に惚れ惚れするほど美味しいものだけれど、食通でもないじぶんには、ワインがグラスで頼めるブラッスリーのほうが、俄然 身の丈に合っている。

日仏学院ブラッスリーは、まさに片田舎の学食を思わせる、正統派のダイビングだった。中庭の芝生にざあざあ流れる雨からガラス一枚で隔てられた室内には、異様な熱気が漂っている。お皿とフォークがぶつかり合う快活な音と、満席の食事客のお喋りが渾然一体となって、天井まで高く立ち上り、賑やかに反響する。こういう場所では、誰の、どんなにくだびれた胃袋であっても、貪欲かつ健全な働きをするほかない。暑すぎも寒すぎもしない晴れた日には、テラスで食事するのも、気持ちよいだろうな。

食事に続くお茶の時間を楽しく過ごして、WRのいえに戻ると、仕立てたシャツを受け取ったり、あたらしい靴を探すなどの用事のために、てっきり新宿をぶらぶらしていると思い込んでいたWRがいて、わたしに「あるもの」を見せてくれた。考えれば考えるほど、尊敬と反発心が、おなじ分量で膨れ上がってくる。ふだん、ロックとかいう悪い音楽ばかりを聴いてポワンポワンとしているようで、まったくあなどれない、だけど、いつかこんなときが訪れるとは思っていたわ。わたしはナウシカのように強くて賢い女の子なので、いつも一緒にいる男の子にだって、けっして負けていたくはないんだよ。