夜が分裂する

東京はすでに猛暑。日曜も 涼しくした室内の、さらさらのシーツの上で、日がないちにちねっころがって怠惰に過ごした。ベッドの上でアイスを食べたり、文庫本を読んだり、かわうそ人形を動かして遊んだりしていると、ポンパン、と 玄関の呼び鈴が鳴り、WRが遊びにやって来た。

「こんにちは」 「こんにちは」

普段なら、得意の散歩に出掛けるところだが、この暑さでの散歩は自殺行為なので、おとなしく部屋でゴロゴロを続行。WRは、甘いジュースをたくさん飲んで、ぐったり疲れて眠ってしまった。こどもの頃の夏休み「ジュースを飲むと余計に疲れるから、飲むなら麦茶にしなさい」と母親に注意された記憶が甦る。もう大人なのに ジュース たくさん飲んで 寝てる!

しかし気温や湿度というのは、人間生活にテキメンに影響する。南国の地においては、やはり哲学的思考に耽るのは困難であろう。うっかりと甘いジュースを飲みすぎて木陰でスヤスヤ眠ってしまうのが、ただしい夏の休日というものかもしれない。

夜 WRの会社の仲間の飲み会に(勝手に)混ざって、下北沢のハワイっぽい店でお酒を飲んできた。
http://www.tsunami.co.jp/shimokitazawa/menu.html
初対面のひと(そして それぞれにちゃんとしたひと)の前では、ひどく萎縮して舞い上がってしまうわたしは、ハワイっぽい料理などを前に、「ああ、ハワイを思い出す」「行ったことはないけどね」等々、脳を1ビットも働かせていないような無益な発言を繰り返してしまった。酔いなどまったく回っていないにも関わらず、どんなダメな酔っ払いよりも言語不明瞭なわけのわからない発言を繰り返し、なぜかうっすらと死にたくなった。しかし わたしは緊張したり 死にたくなったりしながらも、存外に楽しかったのだけれど、周りのひとは 突然の闖入者に、いったいどのような感想を抱いたのであろうか。とても不安。いわゆる 飲んだ上での失敗、というのは、しばらくお酒は飲むまい、と誓いをたてることで己を戒めることが可能だけれど、大して飲んでもいない今回のようなケースの場合、どこで自分を戒めたらいいのかさっぱりわからず、自分が果たして敗北したのかどうかも実はよくわからず、結局 何もかもが曖昧模糊としてよくわからないことが、漠然と不安だ。でも しかしそんなことより、後藤明生の「挟み撃ち」は素晴らしく分裂している。「外套」に偏執的に囚われた主人公が、「グァム島」を「外套」と聞き間違えるところなどがとてもよい。

挾み撃ち (講談社文芸文庫)

挾み撃ち (講談社文芸文庫)