花冠と兎の眼
■土曜日
友人カップルの結婚パーティーにお呼ばれする。パーティーというより「気心知れたひとの集まり」といったカジュアルでさっぱりしたパーティーで、お酒を飲んだり写真を撮ったり、数年ぶりの知人と喋ったり、適度にリラックスした時間を過ごした。‥‥などと書くと、書いている自分でも「どんなラグジュアリーな大人の社交場だよ」と思ってしまうが、実際のところ知っている人同士で会場の隅に寄せ集まって、周囲の酔っ払いを観察したり、“ブッフェでとってきたユデタマゴを誰が食べたか”でけんかが勃発したり、「花婿の髪型が『聖☆おにいさん』にしか見えない」と言っているひとがいたりするなど、終始大人の社交場とは程遠い様相であった。花嫁は、ともだちが造花でつくった花かんむりを被っていて、それはティアラみたいにキラキラの冠ではなく、どこかの国に咲いている野生の薔薇で作ったような、力強い花かんむりで、会場内をちょこちょこ飛び回る小さな花嫁に、これ以上ないくらいよく似合っていた。
しかし まぁ「おめでとう」とか「よかったね」という部外者の声など、到底およびでないくらい、傍から見ていて一緒にいることが当然、と思えるひとたちがいる。この日結婚したまゆちゃんたちも、わたしなんかから見るとすっかりそうで、だから 一緒にいるも幸せになるも、それは 目眩滅法 そうなって当然の話だ。誰の結婚式でもこんな風に思うわけじゃない。裏方を一手に引き受けていたごい夫妻の献身にも(本人たちは楽しいからやっているだけ、と言うに違いないけれど)凄いポテンシャルを感じた。わたしも 誰かの喜びのために身体を動かせるひとでありたい。ひとを信頼して生きていく、希望を見た。
しかし、満身創痍な新郎新婦も含めて、ビートルズのベストが曲順でダダ流れている和風の飲み屋で 静かな三次会を行ったとき、皆から一様に「眼が赤い」「その眼球の血走りは異常」と集中砲火を浴びた。このひとたちと飲みに出掛けた夜に限って、わたしは毎度 毎度 眼の赤さを指摘されるのであった。
そしてWRと 眼科に行く、行かないで口論となる。
「そんなに眼赤くして、もしも盲目になったら、二度と本が読めなくなるよ」
「きみに読んでもらうから イーーヨ」
「‥‥‥。でもねぇ、眼が見えなくなったら、ねこが見えなくなるよ」
「!」
「ねこが見えなくなるし、それに、ねこの写真も見えなくなるよ」
「!!」
「それでもいいなら、いいけど」
「‥‥‥。眼医者いく‥‥」
終電に急いで、バタバタと改札に駆け込んだ皆と別れて、駅の反対側の家に帰る。結婚式の日なんて 今までとこれからの長い長い日々と比べたら、瞬きみたいな瞬間なんだろうな。したことないからわからないけど。曇り空の夜空に隠れて、月はぼうっとも姿を見せてくれない。みんなはこれから最終電車に乗って、何時に眠りにつくのだろうか。とても短くてとても愉しい夜が、またひとつ過去になる。
■日曜日
飲んで遊んできただけなのに、一人前にパーティー疲れで、午前中いっぱい寝そべって過ごした。朝に出遅れたので 鎌倉行きは次回に延期して、午後 WRの着替えの為に神楽坂へ一旦立ち寄り、新規開拓したインド人のインドカレー屋で遅いランチをとる。食べ終えて店を出ると もう16時過ぎで、ぽつり ぽつりと雨粒が降りだした。JRの券売機で 新幹線の切符を購入。ひさしぶりに御茶ノ水へ行く。わたしは御茶ノ水なら三省堂書店がいちばん好きだ。新刊ばかり 三冊購入。
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