なつやすみ記◆6

【名古屋2日目】
午前中からすでに真夏の暑さ。午前中から覚王山という名の街へ。此処は名古屋の中心地から電車で10分の落ち着いた住宅街だけど、日泰寺というお寺に至る参道に、こじんまりと可愛いらしいお店が軒を連ねる。商店が立ち並ぶ日除けのない参道と、狂ったようなセミの声に、一瞬 こどもの頃の夏休みによく訪れた、母の実家のある田舎町を歩いているような錯覚に陥る。母の田舎では、ゆるりと大きくカーブした参道を突き当たると、海が見えた。
日泰寺は 日本で唯一 タイから献上された釈迦の遺骨が納められている、宗派に属さない寺院とのこと。お寺の中では大人数の僧侶が一列に並んで大きな声でお経を上げていて、やはり日本の寺特有の厳かな雰囲気とは少し違った活気が見られた。

その後、お寺の隣にある「揚輝荘」という名の、かつてタイから来た留学生が居住していた建物を見たのだけれど、ここでわたしは無数の凶悪な蚊の大群に襲来され、もう「かゆい」以外いっさいの思考が停止する。“覚王山アパート”という、同潤会アパートを縮小させたようなお店にも立ち寄ったのだけど、やはり「かゆい」以外何も考えられない。見かねたWR(このひとは一箇所も刺されていない)が虫さされ薬を買いに、隣の駅まで疾走。かたじけない。

両手両足から虫さされ薬のメンソール臭を漂わせながら、WRの実家での昼食会に参戦。昨日お会いしたWRMをはじめ、WRGM(WRグランマ)、WRS(WRシスター)もわざわざわれわれの為に集合してくれた。ねこは一瞬 姿を見せただけで、ひきこもり。WRMはもちろん、WRGM、WRSのお二方も、恐るべきよいひとたちで、とりわけ同世代のWRSが、とても話しやすくかわいらしい女の子であったことに何かと助けられる。テレビから流れるオリンピッコの体操競技についてああだのこうだのとお喋りしながら、牧歌的なランチを過ごす。

千種駅に移動して、WRが大好きな書店「ちくさ正文館」へ。書店業界で一目置かれる書棚、と言われる理由がとてもよくわかる。書棚を眺める客が、受動的でいる限り 町の普通の本屋だけれど、ひとたび連想ゲームを働かせるような 能動的な眺め方をすると、書棚に並ぶ本の冊数やタイトルの何倍もの情報がたちまち有機的に連関し、網の目のように広がっていく。こんなふうに、ただ頭をぼーっとさせて並んだ本を眺める時間と、知的欲求に動かされてアグレッシブに書棚を眺める時間、そのどちらにも対応できる書店が良い書店なんだと思う。ルイスキャロルの論説集が欲しかったけど、高くて重いので諦めた。町は昼も夕方もお構いなしに、まだまだ暑い。電車に乗ってホテルへ戻る。

夜は ひつまぶしの店でテツオに会う。ひつまぶしのあと、テツオお勧めのバーへとハシゴし、仕事 文学 映画 音楽 環境問題 政治問題 ニート問題 現代社会の病巣 文化比較論 結婚 恋愛 友人知人のゴシップ等、万物について喋りまくった。テツオは飲みの後半、突如として飲料をモエ・エ・シャンドンに切り替え、気高くグラスを傾けていた。おもしろすぎる。

まだまだ話し足りないものの、明日があるということで1時過ぎにあえなく解散。次にまた3人で会えるのはいつだろう。