なつやすみ記◆7

二日酔い防止ドリンクの賜物か、ホテルの朝食に間に合う時間に爽やかに起床。新幹線は15時発なので、徒歩で名古屋城を目指す。

午前中から、またしてもクソ暑い。城内敷地の深い深いお堀のようなところに、4匹の鹿が飼われていたけれど、鹿を見ているのはわたしたち二人だけだった。奈良や宮島なら、鹿せんべいを与えられ、一生をちやほやとされながら過ごせただろうに、名古屋城の鹿は うっかり名古屋城に存在してしまったばかりに、誰からも見向きもされず、暑さでぐったりと落ち窪んでいる。

城の中は、冷房完備で快適。焼失のせいで展示物が足りないのか、城内では「世界の昆虫展」など、歴史とは無関係で、夏休みの宿題層に訴えかける展示が行われていた。しかし別の階に上がると、鎧兜などが展示してあり、さきほど通り過ぎた「昆虫展」とのリンクを感じる。刀剣や弓矢などは、牧歌的な武器と思えるけれど、実際に目にすると意外とこわい。わたしもWRも日本史に関する造詣は「大学入試における私大文系の頻出問題」で完全に停止しているので、そういった知識との照合を行いつつ、矢印の指し示すまま 螺旋状に巡回し、天守閣(結構ひくい)まで上りつめて、また下りた。

地下鉄に乗って、テレビ塔の方へ移動。塔を下から見上げる。名古屋のテレビ塔と言えば、浅井健一BLANKEY JET CITY)がファースト・キスをした場所として一躍有名なスポットだけれど、まぁそれはどうでもよい話で、そこはお洒落なカフェやイタリアンがぐるりと囲む、近代的な清潔感がたちこめるお出かけスポットであった。

昼は、名古屋名物あんかけスパゲティの店へ行く。椅子に腰掛けていても 床が油でつるつる滑り、下半身がひとときも固定されない。近隣の会社に勤めていると思しきサラリーマンに大人気の店。しかし、こちらに来て入ったお店はどこも、給仕の店員が中年以上のおばさんである率がとても高い。足元も口元もつるつる滑らせながらの、必死の昼食。

新幹線まで若干の時間の余裕があったので、名古屋駅直結のミッドランドスクエアにあるスカイプロムナードという展望台に上がる。247mの高さというから、東京タワーよりはひくいはずだのに、これが恐ろしく高く、恐ろしくこわい。高所恐怖症というわけではないけれど「ここにガラスが無かったら」とわざわざ想像力を働かせ、感受性を鋭敏にして、高さと恐怖をおおいに堪能。スローライフや田舎暮らしやエコ的な潮流が現代社会を席巻しつつある一方で、科学の発達という観点で人類が目指すべき場所は、天空や宇宙という、地上からより遠く離れ、複雑化・高度化した地平であるのは変わらない。変わらないどころか、その方面への追求も一層進んでいくわけで、わたしは海や山にも行きたいし、かといって都会のビルのありえないような無機質さも大好きなので、たのしい時代に産まれたことを感謝したいと思った。

そんなこんなでういろうなどを手に携えて、東京駅へ帰還。あんなに名古屋との別れを惜しんでいたWRが、東京駅(勤務先の最寄り)に降り立った瞬間「あー、やっぱり東京がイチバン」とふつうに言い放ったので、雪 アングリ。

その後、梱包であふれ返った地獄のような自宅に戻る。翌日の昼に引越し業者がやって来るので、旅疲れを癒す間もなく、泣きながら最後の梱包を行った。タイ料理屋で英気を養い、夜半過ぎまで梱包に励む。