降ったり止んだり眠ったり

同期の佐々木さんとランチ。同じ部署の女性軍団と連れ立っていく昼食は、完全に「これも仕事のうち」と捉えているので、こうして時々 同期とふたりで出かけるのは それだけで心が晴れる。
彼女は(可愛らしい見た目にそぐわないことに)なぜか社内の事情通で、いつもわたしに(主として俗的方向性において)驚くべき新情報をもたらしてくれる。彼女曰く、彼女自身のそういうところは「いっけんすると詮索好きで噂好きなおばさんみたいだけど、自分の場合は単なる興味本位で知っているのではなく“いろいろな人生がある、ということを正しく知って、人生の参考にする”という目的意識がある」らしく、そもそも聞いてもないのにそんなエクスキューズを自分から述べだすことも相当おもしろい。じっさい 彼女の噂話は、陰湿さや偽善が挟まっていないので、聞いていて不快どころか、陽気でたのしい気分になる。

終業後 WRと神楽坂で待ち合わせ。WRの前のマンションに向かい、さいごの掃除を行った。荷物をぜんぶ運び出してから、まだ5日しか経っていないというのに、がらんとした部屋に入ると、ここに生活があり日常があったことが、夢か幻のように思われる。ふたりで床にかがんで拭き掃除して、掃除はすぐに完了した。このマンションには、エントランスに巨大なメロンの置き物があって、わたしはそれを「しあわせのメロン」と名付けて、此処に来たときはいつも、すべすべとさわって遊んでいた。しあわせのメロンにも もう会えない。マンションをちょうど出ようとしたタイミングで、外は凄い豪雨。大きな傘をさして、小川のようになった歩道を ざぶざぶと進む。

お風呂から上がって、ベッドのなかでゆっくり「漂流教室」を読もうと思っていたのに、ベッドに寝転んで数ページでコテンと眠ってしまったらしい。眠りの向こう岸から「もう寝てる」「ゆきんこ あんなに楽しみにしてたのに もう寝てる」「ハハハハ」などとひとりで喋るWRの声が聴こえてきた(気がした)。聴こえてはいても、眠たくて眠たくて、とても起き上がれないし応えられない。応えられなくても、眠りの膜を隔てて聴こえてくる声や音は 覚醒しているときよりずっと、脳の内部にダイレクトに響く。水の中に潜って、外のざわめきを聴くときのようだ。言葉が遠く近く、やさしく脳に響いてくる。