会話について

株価が不穏。しかしわたしは普段通りの業務を普段通りにこなすだけ。何も変わったことはないはずなのに、一日中ずっと 気分がふさぎこんで仕方なかった。デスクの前に座ってやるべき仕事をしているけれど、ほんとうのじぶんは 毛布にすっぽり包まって篭城している。身体のなかに、内臓や骨や血液が閉まってあるとはとても思えないくらい、自分の内部が空洞で、表面的に人の形をしているだけの 硝子瓶のようだ。硝子瓶の中に 瓶詰めされた海がある。海の底には感情の靄が堆積している。動いたり思ったりするたびに 沈殿したものが舞い上がり、海が濁って滞る。

20時に帰宅。バッグを床に放り投げて、パスタを茹でる準備をしていると、10分遅れでWRも帰ってきた。鶏肉とバジルのパスタを作って食べる。その後WRは持ち帰り仕事でわたしは家事。それらが終わって、今日はじめてゆっくり話せる、と思ったけど、WRは「疲れた」と言って眠ってしまった。わたしも疲れてる。なのにとても眠れない。線路の向こうのむかしのわたしの青いアパートまで、夜の散歩に出掛けてみる。空にはぼやけた半月。夜の空気と金木犀のいいにおいが混ざり合って、時々 どこからともなく微かに香る。歩いても歩いても わたしの中の濁った海は消えてくれない。