〔夢日記〕こわいゆめ

床で眠った夜、こわい夢を見た。白く たっぷりとした布が敷かれた死刑台の椅子に、友人のS君が座っている。わたしはそれを後ろから眺めているので、後姿しか見えない。S君は これから死刑が執行されるところだ。S君を中央にして、両脇に二人 別の死刑囚も椅子に腰掛けていたはずなのに、次第にその二人は見えなくなって、わたしの視界にはS君だけが大写しになる。

S君の罪状は「遊びで焚いた焚火の火が燃え移って、12名のひとを殺した」ということだ。彼を知っているひと、彼を助けてあげられるひとを探して、わたしはS君のことを知っているひとを探して、思い当たる場所はすべて、闇雲に訊ね歩く。それなのに みんな、「S君なんて そんなひとは知らない」、とわたしに言うのだ。知らないはずがないのに、知らない、と言って、音楽に合わせて踊ったり、脇目も振らずに仕事をつづけて、知らぬふりを決め込んでいる。

夢の中のわたしなのか、夢を見ているわたしなのかも判然としないまま、必死で考える。焚火の過失と放火は同じことか?わからない。思考したいのに「わからない」で思考が止まる。わからない。わからない。わからない、ばかりがぐるぐると鈍く回りつづける。S君は 背を向けて椅子に腰掛けたままぴくりとも動かない。S君の耳のうしろやうなじのところは、ああ この感じは何か凄く見憶えがある、と思った。後10秒、7秒、5秒、と、刑が執行される瞬間までが なぜか 精確な秒読みでわかった。最後の5秒間に「S君」と名前を呼んでみようと思ったけれど、振り返ったS君と目が会うことが怖かった。彼の人生の最後の5秒に名前を呼んでみるなんて、そんなことは決してしてはいけない、と思ったのだ。そのまま夢は終わり。S君は夢の中で確実に死んだ。