地に足がつく

寝坊しそうなところを慌てて起きて、昨夜と同じ順路を辿って親たちが泊まっているホテルへ急ぐ。この日はWRMと銀座でお買い物の予定。WRMのご好意で、プレゼントを選びに行くのだ。

予定より30分後れでホテルのロビーに行くと、わたしの母とWRMは朝食のあと二人でお喋りに夢中だったとのことで、遅刻が遅刻にならずに済んだ。この母親同士は、なんとなく似ているところがあるように思える。外見もこじんまりとして素朴だし、もう大人になったこどもに対して「こうしなさい」「ああしなさい」と世間の常識を押し付けるようなところが少しもないので。わたしの父の母と、母の母は似ていたであろうか。孫であるわたしには、おばあちゃんは単にふたりのおばあちゃんだったので、よくわからない。ともあれ、ホテルのロビーで記念写真などを撮って、ホテルをチェックアウトし、銀座方面へと歩いて向かう。銀座の目抜き通りへ至る午前中の路地は、人気が少なく、いかにも都会的な路上のゴミが妙に露わになって見える。

夕方の飛行機で帰る両親とは、銀座のデパートの前で別れた。WRとWRMとわたしの3人で、お買い物に行く。「実用的すぎて、そんなものでほんとうにいいの」とWRMに窘められながら、わたしたちは洗濯機の上に据えつけるタイプの乾燥機を買ってもらい、それだけではあまりにも味気ない、と言うことで、格好良いデザインのコーヒーメーカーもプレゼントしてもらった。プランドの靴や鞄も素敵なんだけど、なんていうか 地に足がつきすぎているわたしたちの生活にはあまり合わない。乾燥機やコーヒーメーカーはかならず毎日使うし、この乾燥機で毎晩のバスタオルをふかふかにできたら、わたしは凄く幸せ。

名古屋でねこのお世話をして待っているWRSへのお土産もみんなで選んで、ホテルから数えると 新橋-銀座-丸の内-東京駅とまだ早い時間なのに休憩もしないで随分歩いた。WRMは美術館にも東京観光にも行けないで、わたしたちのプレゼント選びに付き合ってくださって、有難いとしか言いようがない。次にWRMが東京に来たら、たのしい場所をたくさん案内してあげたい。丸ビルで遅いランチを食べて、新幹線に乗るWRMをお見送り。

旅行したわけでもないわたしたちでさえ、家に帰るなりベッドに倒れて眠ってしまった。あまりにも疲れすぎて。親たちの疲労は想像を絶することだろう。南無。

夕方に起きて、WRはバンドの練習に出掛けて行った。わたしはベッドの中で漫画を読んだり昨日買った本を読んだり、ぐずぐずと過ごす。石川達三の「青春の蹉跌」と島田雅彦の「退廃姉妹」を交互に読んでいたのだけど、ひさしぶりに小説を読むと、小説の中の奴らのあまりの自堕落っぷり、身勝手さに無性にいらいらする。小説の中に出てくる奴らは、今も昔もそんなのばっかりで、品行方正な人物しかいない世界は小説にならないのもよくわかるけど、特にこの2つの小説は、登場人物たちがへんにまともな面を被っていながら、破れかぶれすぎるのでいけない。どちらも全開の大衆小説なので、仕方ないんだけど。

WRのバンド練習は近所のスタジオだったので、途中練習風景を見にお菓子を持ってスタジオに寄ってみた。WRが今練習しているバンドは、友達の結婚式の為に職場で結成された素人バンドなので、全員 これは練習なのに、見ているこちらが目を瞠るほどの、本番さながらの真剣さで演奏していて面白い。真剣である、ということは、格好いいか面白いかのどちらかで、この場合はめちゃくちゃ面白かった。WRが着用していた、胸にローマ字で「コロラド」と書いてあるパーカーでさえ、なんだかめちゃくちゃに面白く、良いものを見た、と思って、そそくさと帰宅。

昼寝したけど、夜にもよく眠った。明日はひとつの用事を済ませるだけで、街からは出ない。