小匙一杯分の夜

なんと長い一週間だろう。平日はもうたっぷりと働いた気がするのに、まだ木曜の終わりに過ぎない。会社にて ふとした時に 人事評価に関する部長とマネージャーらの会話が耳に入ってきて(こういうことは 今回に限らずとてもよくある)、内容自体はすぐに忘れてしまうとしても、ああ 嫌なこと聞いちゃった、というしこりのようなものは、なんだか一日中 自分の底に沈殿する。そんなせいもあり 会社にいればいるだけ無気力になっていきそうなので、定時の鐘の音と供に早々に会社を出た。とくべつ疲れたわけでも嫌なことがあったわけでもないけれど、1秒でも早く家にかえりたい日もある。

家に帰り、パスタの準備をしているとWRも帰ってきた。昨日・今日・明日の3日間だけ 遠くの町で仕事をするので、電車の中でふだんより沢山本が読めるのだと言う。木のぼり男爵もすっかり読み終えている。木のぼり男爵は、基底に漂うギャグセンスが わたしの大好きなフロベールに酷似しているとのことで「ぜひ君も読みたまえ」とまたしても熱烈にお奨めされた。そして フロベールと云えば、この前の外苑前民家大爆発だよね、あれもフロベールがボヴァリーで150年前に予言してたね、などと語り合う。トマトソースのパスタで夕食。食後のチョコレートアイスを欲張ってひとりでぜんぶ食べたら、さいごのスプーン一杯分を舐め終えた瞬間に、シクシクとおなかが痛くなった。WRは この夜は持ち帰り仕事も少ないようで、週末のライブに向けてベースの弦を張り替えたり、ヘッドフォンを装着して己の演奏チェックに余念がない。短い夜が更ける。此のところ毎晩 後半に差し掛かった「放浪記」をベッドの中に持って入って読むのだけれど、まず数頁読み、いいなと思ったところでまた頁を戻って読み直すあいだに眠ってしまっているようだ。

この日聴いた音楽