正直 ガチャピンに似てた

火曜日に休暇を取ったので、水曜日は溜まった仕事で多忙だった。けれど前の日にのんびり遊んだり休んだりしたお陰で 働けど働けど疲れない。部長の来客が30分刻みにやって来て、ご案内したりお茶を出したり、まるでウェイトレスのように くるくると大忙しだった。

本日の来客の一組に、“ネコ社(仮名)”という取引先の担当者が新入りの女性社員を部長に紹介する、という趣旨の訪問があったのだけど、そのとき 信じられないことに その新入りの彼女は「この秋、ネコ社(仮名)さんに転職させて頂いた**です」と自己紹介してしまい、そのひとの上司が「こら!もううちの社員なんだから、自分の会社に“さん”付けはないでしょう」と慌てて訂正する、というくだりがあって、思わずお茶のお盆をひっくり返しそうになった。どんなコントだよ。脱力する。

ネコ社(仮名)と云えば、人気企業ランキングで名前を見ないことは過去にも現在にも未来にも一度もなく、企業社会の頂点に君臨し続けるあのネコ社(仮名)であるのに、他社で4年の経験を積んだのちに華々しくネコ社(仮名)に転職したひとが、幾ら緊張しているとはいえ こんなスタンダードな敬語を間違えるひとであるなんて、やはり世間はとてもおかしい。

夜は 友紀ちゃんと食事。急なお誘いだったけれど、よろこんで駆けつける。円山町近くのイタリアンレストランへ。友紀ちゃんは白と赤を一杯ずつ飲んで、わたしは(この頃 ワインを飲むと頭痛がするか眠くなるかのどちらかなので)ジンをちびちびと。

珈琲とデザートも終わってそろそろ出ようか、という頃 友紀ちゃんが妙にテーブルの上のシルバーを落としたり、灰皿を落としたり、そのたびに店員の注目を集めてガシャンガシャンとやっている。テーブルチェックする際も、妙に大量のお札を出して、お金を渡しすぎたりしている。わたしはそのたびに(この店狭いからぶつかるのかなー?)とか(女同士って割り勘の計算遅いよなー)とか、ぼーっとして考えていたのだけど、お店を出たあとに(もしかして友紀ちゃん 酔っ払ってる?…)とハタと気づいた。二人で食事に行くときは よほど飲むつもりで選んだお店でない限り、アルコールはいつも二杯、三杯ほどしか飲まない。この日もまったくの適量内なのに、なぜ急に酔っ払って、触るものみななぎ倒しているのか ほんとうに謎。

レストランを出たあと、近くのカフェに入って温かいアールグレイを飲む。しかしお喋り(主に「有名になりたい」「っていうよりはむしろ有名人になりたい」というわたしの熱い独白)の最中 ふと友紀ちゃんの顔を見ると、あきらかに 目を閉じて このこ 眠ってる!酔っ払ったあとの睡魔が襲ってきたのであろうか。じまんのおおきな目がしっかり半分閉じていて(友紀ちゃんは ほんとうに目がおおきいので、半分閉じてやっとふつうのひとと同じサイズ)、正直 ガチャピンに似すぎだった。

目の前にいる女の子が 一瞬でガチャピンに変貌するということは、文章に書くとかんたんだけど実際目の当たりにするとかなりの衝撃だ。このままガチャピンアールグレイを啜りながら悩み(「有名になりたい」等)を打ち明けつづけるのも不毛だし 嫌なので「そろそろ帰ろう」と促すと、意外なことに「えー あともう10分だけここで飲もうよ」と引き止めてきて、今度は新橋のオヤジのようになっている。もう、わけがわからない。鼻先をくすぐるアールグレイの芳しい香り。混沌とする。

夜の街は、眠気からも酔いからも醒めずにはいられないような冬の冷気。スクランブルの交差点のところで「あなたは井のヘッド(井の頭線)?」「あなたは山ハンド(山の手線)?」などと互いに口走りつつ、右と左に別れて帰宅。こんな夜は あとから思い出せば出すほど可笑しくなってしまう。

23時に帰宅。WRは 頭から爪先まで 掛け布団にすっぽり包まって眠っていた。髪を切って帰ったらしいのに、切りたてのマッシュルームヘアーも全然見えない。

この日食べたデザート。友紀ちゃんが頼んだモンブランは、ディッシュアートがうつくしかったのに、わたしのティラミスは ただ皿に切り分けただけ。寂しい。