黒い部屋 白い部屋

木曜日。あくまでも仕事上の必要で、この日は珈琲片手にキーボードマガジンやサウンド&レコーディングマガジンの新しい号を熟読。KMのほうは、表紙と特集が小室哲哉という凄いタイミング(例の事件前さいごの取材かも)。そして、サンレコの表紙と特集は、中田ヤスタカ。どちらの誌面でも、それぞれが自宅スタジオを公開しているのだけど、両者の作業部屋があまりにも対照的で、コンピューターミュージックにまったく造詣の無いわたしでも、その“隔世”には瞠目せざるをえない。小室哲哉の部屋は、アナログ・デジタル問わず、ここはシンセの博物館ですかと勘違いしそうになるほど、全メーカーの殆どの機種がずらりと出揃い 溢れ返っている。整然と片付いてはいるけれど、一般人が想像する業界人のレコーディング・スタジオそのままの風情。機材の多さのために、部屋全体が黒く見える。

一方、中田ヤスタカの部屋は、有名な話だけれど、ほんとうに何もない。デスクの上にモニターとミニサイズのスピーカーとMX61がちょこんと置いてある。あとは左サイドに88鍵のMO8を置いているだけ。音楽好きのフリーターのワンルームより、機材の数は少ないかも。機材に限らず物が少なくて、空間が とても 白い。

ふたりとも少年期からの機材オタクだったそうで、ちゃんとピアノが弾ける鍵盤弾きで、アイドルが歌う曲を作る。表層的な共通点はとても多そうに見えるけれど、テクノロジーへの親和の作法も頭の中も 両者はあまりにも隔絶している。小室の方も中田の方も、 肝心の音楽に関しては“かつて流行していた”“今 流行している”ということ以外何も知らないし興味もないけど、ジェネレーション・ギャップとは ここまで具現化されるのか、という事実が なんだかひどく衝撃的だ。

キーボード・マガジン (Keyboard magazine) 2008年 10月号 AUTUMN [雑誌] (CD付き)

キーボード・マガジン (Keyboard magazine) 2008年 10月号 AUTUMN [雑誌] (CD付き)

サウンド&レコーディング・マガジン (Sound & Recording magazine) 2008年 12月号 [雑誌]

サウンド&レコーディング・マガジン (Sound & Recording magazine) 2008年 12月号 [雑誌]

夜は旧友とお酒を飲む約束があったけど、仕事が長引きそうとのことで、再会は次の週に持ち越すことに。帰りの電車で また同期で同じ街在住のSMさんに会ったので、一緒に帰り、小一時間ほどカフェでお茶を飲んできた。SMさんとは 一日一往復はかならず社内メールで雑談するけど、一緒にお茶を飲むとメールには書けないレベルの噂話がわんさか出てくる。とはいえ 先月の決算以来 あからさまな経費削減の風潮で、一般社員は戦時中のような社内生活を強いられてきつすぎるので、業務に関しての真面目な情報交換や改善点についても熱心に話す。これから買い物をして夕食をつくる、と言うSMさんとスーパーの前で別れて家へ帰る。

WRは 上司に強引に誘われたとかで、鴨鍋を食べて帰ってきた。WRは今宵鴨鍋を食べたいきさつを説明しながら、かなり年配の女性だとかいう上司の物真似をしていて(仕事先から戻る道中“鴨鍋”とある暖簾を発見し、九州弁のイントネーションで「あ〜、鴨鍋食べたいわぁ」と云う)、それがあまりにも味わい深い。鴨鍋ほど 近代文学の中にしか見つからない単語もない。風の冷たい冬のはじめ、鴨鍋を腹におさめて家路につくひとたちを想像すると、どうしても自動的に大正時代の東京の町が浮かんでしまう。

郵便受けに、WRSからの入籍祝いの記念品が届いていた。表紙がフェルトのねこになっている、アルバム。これには ねこの写真だけをあつめて入れよう。

にっこり!にっこり!