みんなでパーティーを

朝寝坊して昼寝坊して、おやつの時間 午後3時にようやく目を醒ます。眠りすぎた時に限ってかならず見るのが、こわい夢だ。この日見たのは 大地震の夢。目を醒ました直後には、わたしの分とWRの分 ふたり分のリュックサックをつくって、夢の中で足りなかったものをぜんぶ入れておこう、と考えるけど、そう考えた直後にはたちまち、リュックサックに入れるべきリストは夢の向こう側に忘却されてしまう。サークル仲間のまゆ夫妻の新居に招かれていて、約束は夕方5時だったのに、起きたのはたった2時間前で、平日の朝より準備に手こずり、慌ててしまう。

WRとふたり 夕方なのにすでに日の暮れた街をてくてく歩き 電車に乗って、手土産を買うために、いったん吉祥寺で途中下車する。休日の吉祥寺は相変わらず家族連れで飽和していて、駅ビルの中を進むのにも人苦労。サマセット・モームの小説のタイトルみたいに、ケーキと麦酒を買っていく。

まゆ夫妻の家は、三鷹から20分歩く住宅街にある。バスに乗って 大通り商店街をまっすぐ抜けると、もう既に外は夕暮れを通り越した暗闇で、パーティーはこれからなのに なんだか最終バスに乗っている気分。バス亭まで、まゆ夫が迎えに来てくれた。まゆ家は どっしりとした造りの古いマンションで、エントランスに無機質に並んだ各戸の郵便受けや 階段の踊り場の感じは、なんとなく 我が家のマンションに似た雰囲気がある。

WRとわたしが着いた頃は、すでにもう一組のお客のタクミくんも家にいて、まゆちゃんは台所でせっせとチキンを揚げてくれていた。名は体を表す以上に、まゆちゃんの家の中は家主のキャラクターを表していて、彼女の家のリビングは、70年代 高度経済成長期の団地そのものの雰囲気だった。(さすがにチャンネル式ではなかったけど)テレビも今時珍しい真四角で分厚いテレビデオだし、ダイニングテーブルではなく、ふかふかのラグの上に、水玉模様のふとんがかかったコタツがおいてある。可愛いくて落ち着く家だ。おばあちゃんの家に遊びにきた孫のような感覚で、手伝いもしないでさっそくコタツに2本の足をつっこんで、リラックス状態となる。食卓の上は まゆちゃん手作りの品々と 新婚旅行のベトナムで買ったというスナックが混在している。3人の客は お酒を飲みながら完全に3人のヨネスケとなっていた。音楽も なぜかCD棚でもっとも目だっていたビーズのアルバムをわざと流して(テレビや有線放送でなく、CDでビーズを聴くこと自体 生まれてはじめての経験だった。みんなで批評しながら聴く場合、こういうのがいちばん面白かったりする)、それぞれが寝そべったり漫画を読んだり、遊び方が社会人とはとても思えない。全然開かないワインの栓抜きも傑作だった。かわるがわる 瓶を支える係とコルクを引っ張る係になって“おおきなかぶ”の絵本のように 全身の力で引っ張るのだけど コルクはビクとも動かなくて、さいごのさいご タクミくん&WRペアーが引っ張ってみたときに「プン」とへんな音を立てて こぼれながらコルクが抜けた。サークルの仲間で集まると、その日集まったひとの構成で、同じ集まりでも全然違う雰囲気になるのが面白い。WRがバンドを組んでいるまゆちゃんたちと集まると、みんなチビとか痩せとか童顔とか声がダミ声とか 同種の個性の集合体なので、急にその場がこどもっぽくなる。

帰りはタクシーで吉祥寺の駅まで行って、タクミくんともそこで別れて 来たときと同じようにさいごにはWRとふたりだけになって、帰路に着く。珍しく、お酒を飲んでばかりの3日間だった。



↑まゆ夫妻が用意してくれた、結婚祝いのピンク色のケーキ!