スキャン不能

週が明けて ますます寒い。月曜。部長が今になって 来年の賀状の準備に慌てだし、数百枚の名刺束(勿論未整理・未入力)をドサ、とわたしのデスクに置くので、宛名作りに忙殺された。色々試してみて判明したけど、最新型の名刺スキャナーと 最新型のひとりよがりな趣向を凝らした名刺群のいたちごっこは未来永劫終わらないだろう。縦書きでも横書きでも読み込めることがウリのスキャナも、アートなのかどうだか不明だけれど 斜め書きになった名刺は読み込めないし、ドイツ語や中国語の名刺もわんさかある。企業キャラクターなのだろうけど、取締役の名刺が“飛び出すポケモン”仕様になっているのはいかがなものか。そんな独特の個性が炸裂している数百枚の名刺束の中で もっともショッキングだったのは、確かにサイズだけは名刺の様相なのだけれども、木材の破片が混入していたことだった。あたかも表札のように、手書きの筆文字で名前が書いてある。裏をみると、一応名刺の責務を全うしたかったのだろう、住所と電話番号が書いてあるけれど、木目に滲んでよくわからない。さらには 会社名も役職名も書いていないので“この木のひと”をアドレス帳のどこに分類すればよいのか、途方に暮れてしまう。最新型名刺読み取り機なんて、いったい何の役に立つのか。

ひさしぶりに少しばかりの残業をして、帰宅。スーパーに立ち寄る。精肉売場の棚の前でも 豆腐売場の棚の前でも、大学生と思われる男女数人ずつのグループが キャッキャともつれあいながら鍋の材料を選んでかごに入れてた。アメリカのドラマや映画の中では、卒業パーティーやダンスパーティーが男女交流の発展場だけど、ジャパンにおいては「鍋」が相場だ。19、20の男女にしてみたら、母親が家で作る鍋なんて有り難くも何ともなくて、むしろ春菊とか苦くてまずくて食べたくないのに 豆腐をすくったついでに貼りついてぜったい小鉢に入ってしまうし、マックでハンバーガー買ってきて、部屋で携帯メール打ちながら食べたほうが早いし安いし有意義だよ、ってことなのに、ひとたび「友達の家で鍋パーティー」と決まれば、俄然 リア充度はうなぎ登りで、買出しで浮かれ、アク取りで騒ぎ、締めはおじやにするかうどんにするかと言った些細な問題さえも、あたかも小沢派と小山田派の派閥闘争くらい真剣に論じ、争い、和解したりするのだ。わたしは鍋パーティーとかいう誘い文句には一生ぜったいに浮かれないし、何歳になっても春菊の苦さを憎悪しつづける!と 彼らを遠巻きに眺めながら ひとり決意を新たにする。

WRはこのところ残業が多くて、帰宅時間も遅め。仕事疲れをねぎらおうと、玄関の鍵を開ける音が聞こえたと同時に玄関まで走り寄って「歓迎(帰宅)の歌と舞い」を披露しながら出迎えたら「動きがはげしすぎて、靴が脱げない」「(動きがはげしすぎて)近寄れない」と言われてしまった。夕食は きのこや野菜やツナを炒めた和風パスタ。美味しかった。

珈琲をいれて また読書。WRとはいつも、本に纏わる色んなことをお喋りしている。「ロスからオハイオまでもう2往復したところ」とか「いや まて こっちは“両頬にカツレツのようにヒゲをたくわえた…”って…また出てきた!」「リリーフラワー演らないとかマジありえない」「こいつの変態性欲も半端ないです」 等々、思ったことを思った瞬間に、脳を1ビットも働かせないで瞬発的に口走るので、一般的な会話というのは殆ど望めないし成立しないのだけれども。