誕生日パーティー

金曜日。一週間 やっと駆け抜けた。ランチタイム 隣の会社の 美味しくないけど安い社員食堂で、作り置きの揚げ物がわんさか乗ったカレーを食べたら、午後のあいだ中ずっと 胸がムカムカしっ放しで、胸のムカムカを胸のところに溜めたままずっと我慢していたらムカムカに耐え切れなくなったのか、今度は頭痛が止まらなくなってたいへんだった。夜は WRが予約してくれたフレンチでディナー。夕方までは「キャンセルの連絡をするなら今だ」とずっと考えていたけれど、仕事を終えて恵比寿行きの山手線に乗り込むと、病はすっかり治ってしまった。よかった。

駅でWRと待ち合わせして、レストランへ。紺色の空に浮かんだ月が、あんまり大きくてまるいので、驚く。WRがガーデンプレイスの方へずんずん歩いていくので、まさかジョエル・ロブションでも予約してしまったのだろうか、うちの家 まだそんなとこ行けるお金全然ないよ、と内心ヒヤヒヤしていたら、ガーデンプレイス敷地内に突入する寸前に WR(何も考えていない)が、敷地の周縁を鮮やかに左折したので、わたしの心配は見事な杞憂であった。ガーデンプレイスの周囲の煉瓦の小路には クリスマスの電飾が施されていて、いかにも12月という感じ。足が異様に細くて長い犬(殺人犬)が 飼い主に連れられて優雅に散歩している。「わたしの誕生日のために、こんな素敵な小路をありがとう」と云ってみたら「この日の為に煉瓦を敷き詰めました」「この噴水も この日の為に掘り当てました(?)」「高そうな犬も用意してみました」などと あたかも自分の手柄のように云っている。

シャンパーニュで乾杯して、楽しいディナー。わたしたちが案内された並びの席には、2組のカップルが座っていて、どちらも60歳のおじさんと30代か40代の女性、という取り合わせで、どちらの組も 明らかに支払いをするのはおじさんの方だろうに、おじさん本体が 奥の席にデーン、と腰掛けて、女性相手に己の仕事上の業績や、輝ける武勇伝を気取りながら語りつくしている。趣味が悪い、と自覚しながらも、どうしても気になって内容に耳を傾けて WRに「あんなこと自慢してる」などと小声で耳打ちしないではいられない。片方のテーブルのおじさんは、己の海外経験、及び 海外でどれだけ顔が利くかを高らかに語り、他方のテーブルでは芸能人の名前を羅列して「ぼくがオーディションで拾ってやったんだけど」などと嘯いている。

WRにも「ねぇ わたしにも何か自慢していいよ」と云ってみると、WRは隣の席のおじさん群を見習って 椅子にえへん、とふんぞり返り「今朝は ベーグルを食べまして…」「珈琲も飲みました!しかしながら珈琲は若干残しました」「仕事ではパソコンをブラインドタッチして、表をプリントアウトしまして」「プリンターまで歩いて紙を取りにいきました」と 今日一日の行動をあますところなく自慢していた。わたしたちは 永遠にセレブリティには なれそうもない。

WRが二日酔いを恐れてか、あまりワインを飲まないので、わたしは「飲みきらなきゃ勿体無い」精神が作用して、なかなかどうして飲みすぎてしまった。電車で帰ったのかタクシーで帰ったのかも、実はよく憶えてない。またひとつ歳をとって、人生がつづく。明日は誕生日の贈り物を選びに行く予定。