中目黒にて

週末。仕事帰りに、友紀ちゃんと今年さいごのレストランへ。中目黒にある、小さなビストロへ行く。週末の街は いよいよ年末っぽくざわざわと浮き立っている。忘年会だろうか、同僚と何人かのかたまりになって、連れ立って歩いているひとが多い。中目黒の駅前の小さな宝くじ売場の前も 今夜は幾らか暖かいとはいえ、宝くじを買うひとびとで、長蛇の列。銀座の売場の大行列を眺めても思うのだけど、宝くじを買うひとが これだけ目の前に沢山いても、みんなが当たりたい、と願っている いちばんの当たりくじが、この行列のなかの誰かの手に渡るかもしれないとは到底思えない。みんな黒っぽいナイロン製のダウンコートを着て、ウールで出来た黒っぽいマフラーを巻いて、同じように運がなさそうに見える。

この夜のビストロは友紀ちゃんが予約してくれた場所。前酒と前菜、パスタ、メインを選んで、いつも通り身の回りのこと、身の回りのひとのことを、思いつくままお喋りする。小さなお店の中の それぞれの席のひとたちも、みんな“今年の総括”風に食事しているのが面白かった。ほんとうはデザートも食べたかったけど、何しろコートをかけるのも自分でやるようなまったく気取ってない店なので、前菜の時点からポーションも大きくて、メインをおなかに入れたところで、とんでもなくおなかがいっぱいになった。それにしても、前夜に品川で死去し蘇生したばかりだったので、(お酒のせいではないのだけれど*1)アルコールを口に入れるのが少々こわい。なのでこの夜はビールではなく、ジンジャーエールとレモンリキュールを交ぜた飲み物を選択。はじめこそ おそるおそる口をつけて飲んでいたけど、何ともなかったので、飲んでいるうちに昨夜の事件はすっかり忘れた。

珈琲を飲んで、駅でお別れ。年内に会うのはこれで最後になりそうなので「よいお年を」などと言葉を交わしてみる。

(*1)昨夜の臨終の原因は、飲みすぎでも披露でもなく、座っていた“スツール”のせいであるとのちに判明。今回の件で 忘却していた数年前の記憶が甦ったのだけど、わたしがまだうんと若かった頃、同じように食事中に倒れたことがただ一度だけあって、その時はお寿司屋のカウンターで日本酒を飲んでいたのであった。ふつうの椅子ではなく、足の長いスツールに座ることになった場合、椅子に深く腰掛けると足がぶらぶらとなって落ち着かない上に、履いている靴が脱げそうになるため、わたしはいつも3分の1の面積も座らないで、実質スツールにお尻をひっかけて立っているような状態になっていたのだ(背がひくいため、周りのひとにも“立っている”とは気がつかれない)

その上、この日はサッカーを映した画面が自分の背面にあったので、スツールにお尻をちょっとだけのせた体勢で、首だけを後ろにねじっている、という奇妙な姿勢で3時間も過ごした為、血の巡りが捩れ、軋み、滞り、圧迫し、鬱屈し、混雑し、凍結して、大貧血(死亡)状態になったと思われる。スツール死ね!

自分の欠落は「カヌーが漕げない」「反復横とびができない(記録0回)」「比率を%で表現されても、いつもボワワンとしたイメージ(まるいリンゴと 端が欠けたリンゴの絵とか)以上の理解ができない」「顕微鏡を覗いても何も見えない」など、人生の局面において致命傷とはならない些細なことばかりだけど新たに判明した「スツールに座れない」というこれは、案外日常生活に直結している。「乳製品(チーズ以外)が食べられない」レベルで 友人知人に周知徹底しなくては。