バースデイ2度目

WRの誕生日。何の因果か この日はわたしの年下のともだち 鯖吉の誕生日でもある。とりあえず佳い日であることは確かなので、ねこを両手に持って 祝いの舞を披露してから出社。家出した晩の睡眠不足の埋め合わせがまったく出来ず、朝からとても眠たい。

月曜午前は 所属チームのミーティングと決まっている。3時間は長い。長い長い長い。しかしこの日のミーティング中は、ちょっとだけ面白い瞬間もあった。このミーティングは 支社にいる2名とテレビ会議で繋がっているのだけど“あちら側”の画面に唐突に闖入者(緊急の電話受けをして、あちら側の参加者に指示を仰ぎにやってきたひと)が現れて、たまたまカメラの位置的に ドアを開けて入ってくる瞬間から一部始終が丸見えだったので 相当面白かった。

まず、慌ててドアを開けて部屋に飛んで入ってきたそのひとは 会議中であることに気づいて大慌てして恐縮してから“あちら側”の部屋の中にいるひとに メモを読み上げながら電話の概略を説明している。そして“あちら側”にいるひとが自分では対処できない、東京にいるマネージャーに対応してもらわなければ…、と答えると、その瞬間に 画面の“こちら側”にいるマネージャーを見つけた闖入者は「マネージャー!ちょっといいですか!」と 中継中のアナウンサーのように 画面の中からこちらの世界に呼び掛けてきたのだ。テレビ会議はしょっちゅう使っているけど、画面に映しだされた“あちら側”はいつもセッティングされた会議テーブルにきちんと座っているひとばかりで、動作の臨場感を感じる必要も機会もまったくなかったので、このようなイレギュラーのライブ感は それだけで異常に面白かった。会議でぼそぼそと発言するのとは全然違う勢いで、テレビの中のひとが こちらに話しかけてくる!みんな神妙な顔をして静まり返っているときに こういうことが起きると 笑いたくなる気持ちがどうにも止まらなくなって 社会人があまりまともに務まらない。

ミーティング後は 年賀状の宛名印刷に追われる。試し刷りのつもりが、文書選択できなくて印刷が止まらなくなって慌てたり、失敗しないように小分けに印刷しているのに 紙が切れるとプリンターが いちいちピイピイうるさく鳴るし、一日中 まるで機械の奴隷のようだ。郵便番号の枠から数字がはみ出るなど 失敗気味の年賀状は、束の中ほどに分散させて覆い隠し、無事 部長に渡すことができた。ぜんぶで数百枚は下らない数なので、部長も気がつかないことを祈る。隠匿することばかりに長けた人生だなぁ、と、冷静になると自分自身に呆れ果てるけど、今回はもう訂正する猶予もないし、仕方なかった。

夜は近所のビストロで WRの誕生日のお食事。慌てて会社を飛び出して、帰路につく。外は雨。昨日までの温暖とは打って変わって、身体の芯から冷えるような底冷えの夜。WRは午後に半休をとって、デンタルクリニックに行き歯の神経を抜いてもらってきたとのこと。ここ数日、歯にたいそうな激痛がはしっていたらしいので、虫歯の心配なしにお正月休みを迎えられることにとりあえず安堵。

この夜のビストロは、安くて美味しくてカジュアルなのにほんもののフランス人がいて本場っぽいので、わたしたちの気に入りの店。何より、家から近すぎるところがさいこうにいい。WRは 術後の歯をいたわって、カクテルを少しずつ飲んでいる。わたしは白ワイン。除去された神経の行く末や、神経不在の歯の今後についてなど、歯の話題を中心に 誕生日会はしめやかに進行した。

こうしてお互いの誕生日を無事に終えると、すぐにクリスマスがきて大晦日がきてお正月がきて餅をのどに詰まらせているうちに、次のシーズンに突入する。なにはともあれ 12月には 世の中のひと全員に、お誕生日おめでとう、と声をかけたくなる。