クリスマスイブ ガチャピンの切断

ハッピーメリークリスマスイブ!

と、これは季節感を醸し出す効果を狙って書いてみただけで、世の中の大多数の人々と同様 クリスマスは一般的な平日に過ぎなかった。日中 唯一クリスマスを感じた瞬間は、偶々会社のリゾートホテルに出張していた上司が社割で買ってきてくれたクリスマス特製フルーツケーキ(シロップに漬け込んだドライフルーツやクルミが入った、ずっしり重たいパウンドケーキ)を切り分けたとき。フルーツケーキの起源は英国ということだけれども、ヨーロッパやアメリカの映画の中のクリスマスにもかならず登場する(ような気がする)トラディショナルアイテムで、“ヴェルターズオリジナル”の世界観に相当近い。しかし このケーキは非常に甘ったるい上におなかに重いので、日本人の口にはぜつぼう的に合わないと思う。…美味しくないというわけでは全然なくて、小さめにカットして珈琲や紅茶と一緒に食べると美味しいのだけれど、それはお茶の時間に食べるから美味しいのであって、クリスマスディナーの後にこれを食べる気にはなれないし、そもそもこんなマニアックな風味のお菓子が、なぜクリスマスという破格のネームバリューを誇るイベントの公式菓子になれるのか さっぱり意味がわからない。クリスマスにはチョコレートケーキ、クリスマスにはアップルパイ、クリスマスにはチーズケーキ、と仮定してみるとどれも割とすんなり納得できるけど、フルーツケーキって。頭にポカンとクエスチョンマークが浮かび上がるばかり。

仕事が終わり、簡単に買い物を済ませてから帰宅。わたしの誕生日、WRの誕生日、そして途切れることのない忘年会と、すべてのイベントと社交が12月に集約されているような有様なので「クリスマスくらい家でゆっくり過ごしたい」と意見が一致し、夜はおとなしくおうちで過ごすことに。東急の地下に入っている「オリジンーヌ・カカオ」でケーキを買って帰った以外、特にごちそうを用意するわけでもなく、慎ましいクリスマスイブの夜。しかし ごちそうを用意できなかった罪悪感が無意識裡に作用したのか、夕食はバジルのパスタ(緑)と マグロ(赤)とアボカド(緑)のサラダで、気がつくと見事にクリスマスカラーになっている。ちなみにアボカドは、以前は 野菜とは到底信じられないあの食感が苦手で、わざわざ買ってきて家で食べよう、とまでは思わなかったので、今回生まれて初めて料理に使ってみたのだけれど、ゴツゴツとした分厚い皮を包丁で剥いて身を取り出すと、狂った黄緑色の果肉といい、あのぬめり気を帯びた質感といい、ゴロンとした鈍重なフォルムといい、これはガチャピンそのものでは…?と感じられてならない。まな板の上でぬるぬると滑る果肉を一口大に切断しながら、ガチャピンの肉体の一部を切断している!と、どうしても錯覚してしまう。

―――映画の中のクリスマスパーティーのような“クリスマスらしい、完璧なクリスマス”の「本物」は ほんとうは地球上何処にも存在しないのに、クリスマスの夜は未だに世界中誰もがそういう時間を過ごしているような気が、どうしてもする。暖炉の前に巨大なツリーがあって、ツリーの下にはプレゼントが山積みで、テーブルの上には七面鳥やフルーツケーキがずらりと並んで、鈴の音が鳴る音楽が流れて、背の高いパパと美人のママ、恋人もいるし金色の毛をしたでかい犬もいるような。そんな世界は ほんとうは何処にもないし、それをしているひとたちも、幻覚で見たそういう世界を再現しようとしているだけだーーー

WRがモエ エ シャンドンを買って帰ってくれたので、シャンパーニュで乾杯。心静かな夕餉を過ごす。


クリスマスまでに準備したいこと(来年以降の参考の為に記録しておく)

☆ケーキ売場はどこも長蛇の列なので、カットケーキでも予約購入が望ましい

シャンパーニュは、当日は冷やしたものが売り切れなので、早めに購入して冷やしておく

☆クリスマスの三角帽子(無いと気分が出ない)も できるだけ早めに用意しておく

ビーチボーイズの「ザ・クリスマス・アルバム」をすぐに取り出せる場所に準備しておく

クリスマス・アルバム

クリスマス・アルバム