つかれたひと

木曜日。雨。昨晩は 夕食の残骸も放ったらかしで、灯りを点けたまま眠ってしまった。朝起きて、ダイニングテーブルに並んだままの、汚れた殻の皿を見るとさすがにギョっとする。真夜中 幽霊が晩餐会でも開いたかのよう。少なくとも、わたしの母親は一度もしなかったことだ。一刻もはやく油まみれのお皿を洗いたい衝動に駆られたけれど、うかうかしていると会社にも遅刻しそうなので、とりあえずテーブルの上の残骸は流し台に運んで水で流して、自分の身支度に勤しむ。寒さのせいだろうか、今週は自分の身体が充電式になっているかのように、一日ごとに明らかに体力が減っていく。

前の席のぶらさがりおじさん社員は 風邪とのことでお休み。穏やかで、紳士的で とてもよいおじさんだけれども、名ばかり管理職で閑職の彼のモチベーションが、(今に始まったことではないだろうけど)日に日に落ちてゆくのが見ていてもわかる。こういうおじさんの風邪、というのは、風邪は事実なのだけれど 身体的な風邪というより心理的な風邪、というほうがより精確なのだろう、と部内の皆が気づいている。彼が(形式だけの)検印をしなければ回らない書類が、机の上に山積みになっている。こんなに山積みになっているそれだって、ほんとうは誰が検印してもよいのだ。だけど、彼の風邪が好くなるまで、それらの仕事はそこで一時停止し、滞っている。意味のない停滞をしている書類の束を眺めながら、色々と考えてしまう。

WRは今月はずっと残業。忙しそう。てきとうに、ひとりで夕食をして、眠る。つかれている。