キャットファイト

本日もまた平穏無事。おひるやすみ 同じ部署の仲良しSM1ちゃんより、とある女性の先輩の陰険な後輩イジメの実態を告白され、吃驚。平生 ひとから一方的に聞いた噂をそのまま鵜呑みにするほど純粋な性分ではないのだけれど、実は別の同僚からも以前そのような話を聞いたことがあったので、遅まきながらも それはほんとうかもしれない、と戦慄した次第。奇しくもその先輩も SM1ちゃんも 大学時代ミス何とかにエントリーしたという美人さん。まるでガラスの仮面か水商売の世界のようだけど、実際はダサ目の一般企業で その上女の嫉妬や色気とは最も無縁に思える、堅実で真面目な仕事を巡っての攻防なので、これはかえっていっそうのホラー。美人がブスを軽んじる、とか ブスが美人を苛めている、などの構図であれば、居た堪れない気分になって落ち込むけれど、美人と美人なら「どっちもがんばれ」と、てきとうに思っていても許されるので助かる。どっちもがんばれ。

帰り際 駅のホームで違う部署のSMさんと遭遇したので、一緒に帰る(家まで全部電車が同じ)。この季節、社内の関心事はもっぱら人事異動に関してのこと。SMさんも、うちの部署の課長が代わるかも、なんか新しい課長は奈良から赴任してくるらしい、誰だろう、などとさかんに気にしていた。そこで「多分 鹿じゃない?」「鹿でしょうね」「鹿!ぜったい」などなど わたしがあまりにもいいかげんな返答を繰り返してしまった為に、嫌われる。

帰宅後は なぜか焼きそばを焼いた。なぜか、というか なぜかと言えば夕食の為に焼いたのだけど、焼きそばを焼くというこの行為の高揚感、否応なしに湧き立ってしまうお祭り気分と、「夕食作り」という日々の地道な行為のあまりの隔絶に、鉄板(フライパン)からもうもうと煙を上げて、はげしく麺を炒めつつも、内心 おおいに驚き戸惑った。休日の、しかも昼食ならまだしも許せるけど、ただの平日の夜に、こんなことしていいのだろうか。ひとりで勝手にお祭り気分を演出していいのだろうか。夕食に焼きそば。たのしくて寂しい。屋台のひとになりきって 麺をかきまぜながら「ヘイ!焼きそばだよ!」とせりふを口走って見るものの、ひとりなので虚しいし、屋台のひとのせりふがダサい。焼きそばのことなんて、ほとんどのひとが好きでも嫌いでもないと思う。わたしだってそう。おなかはバカみたいに膨れるけど、深みも奥行きもないスカスカの食べ物だという気がする。ペラペラのキャベツやもやしも貧乏くさいし、反対に 豪華な海産物がこれでもか、と載っているようなのも「所詮焼きそばなのに」とやはり貧乏くさく感じてしまう。焼きそばのことなんて、誰も深く考えるべきではないのだ。でもだからこそ、お祭りの夜にはあんなにも適合しているのだろうか。お祭りで焼きそばなんか買ったことないけど。へんなの。

北風がびゅうびゅう吹くから、身を縮めて外を歩く。下を向いて、奥歯を噛んで、ブーツの爪先だけをじっと見つめて歩いている。身を切られるような冷たさだけが、ああ自分はこうなんだ ずっとこうだったんだ、っていうあの実感を与えてくれる。春なんてほんとうに来なければいい。4月?5月だと?考えるだけでもぞっとする。わたしはずっとこのままでいたいのに。