狂気の招待状

夕方になって 急な案件が入り、突如として殺人的に忙しくなる。こんな夜に、誰かと飲みに行く約束をしていなくて良かった。

会社が協賛企業になっている 月末開催のとある高貴な行事に関して、来賓の方々へ出欠確認ハガキ付きの招待状をお送りすることになっていたのだけれど、間に立っている運営母体の仕事があまりにも遅すぎる為に、4/2必着と書いてある返信ハガキを、こんな直前に出すことになってしまった。そして、招待状自体の出来上がりが遅いばかりか、招待状に印字してあるそれぞれの来賓の名前や役職名が、10通中10通すべて、間違っていた……。間違っている上に、印字されたフォントも、こどもの悪ふざけとしか思えないような、狂いきった謎の丸文字。すごく偉い人やすごく凄い人たちへの招待状なのに、その宛名が、大袈裟でなく、コロコロと今にも転がりそうなまんまるい丸文字で「ねこ株式会社専務 取締り 役ねこだ ねこさぶろう  様」のようになっているのだ。異常すぎる。

招待状がどんなに狂気の沙汰でも、瞠目してばかりはいられないので、とりあえずそれを作成した団体に連絡を取り(このとき 電話取次ぎの女性の様子がおかしかったので、あの招待状に宛名を書いたのは絶対こいつに違いない、と勝手に確信)、目黒にあるそこの事務所まで、あたらしい封筒を貰いに行った。事務所とは名ばかりの、雑居ビルの一部屋で 家内制手工業的な雰囲気でお出迎えされて、焦る。事情を話すと、さっき電話で話した女性(20代なのになぜか40代のおばさんに見えるひと、のように見える)が憮然とした表情であたらしい封筒をバサッと渡してきた。これで、郊外のショッピングセンターのイートインコーナーの横の広場で開催するようなニッチなイベントを取り仕切る団体だとすれば 相当納得がいくのだけれど、扱うイベント(というか式典)は国家レベルで高貴である。なので、扱う中身と 彼らの仕事場の様子のあまりの乖離にほとんど眩暈おぼえながら、なんとか封筒を鷲摑みに受け取って、社に戻った。受け渡し時間は僅か5秒だったのに、何故か異様に喉が渇いて、駅の構内でCCレモンを一気飲みした(そして、ジュースの糖分のせいであとで余計に喉が渇いた)。

席に戻って、10通の招待状の宛名を 美しく ラクラク 正楷書体にて印刷し、同封するお手紙の文面を書いたり 住所を調べたり 来賓10名以外のリストを作ったり諸々作業をしていたら22時に。普段定時で鮮やかに帰宅しているわたしにすると、「発表会のじゅんびで 小学生なのに夜8時まで学校にいる!(用務員さんに鍵を閉めてもらって帰る)」ときの心境であった。帰宅すると、こちらは早目に仕事が片付いたらしいWRが、パジャマに着替えてくつろいでいた。そして 素晴らしいことに、わたしがずっと所蔵したいと希求してやまなかった『魔太郎がくる!』1-2巻を買って帰ってきてくれていた。なんという福音。魔太郎の魔界っぷりを堪能しながら ご満悦で就寝。