ロシアの原稿と歯医者

昨夜は珍しく よく食べる と よく飲む、を一緒にしたので、週明けから身体がとても重たい気がする。普段、にちようびの夜くらいはのんびり過ごしているのだけど、このにちようびに限っては、まるで金曜の夜みたいに過ごしてしまった。後悔するひまもなく、満員電車に乗り込んでげつようび。相変わらず、駅のホームで待ち合わせをして会社に向かう新入社員のグループが多い。それも、男の子の集団ばかり。この頃 電車で見掛ける高校生の男の子たちは、通学鞄やクラブで使うスポーツバッグに、ぬいぐるみのマスコットを付けている率が非常に高い。彼女がいそうな男の子である場合もあれば(ディズニーデートでお揃いのやつを買ったのでは?と想像させるもの、または 女の子からのお土産やプレゼントでは?と連想させるもの)、男子高生でありながら 到底女子高生には縁がなさそうな男の子の鞄にブラ下がっている場合もある。わたしが高校生だった頃なんて、通学鞄にマスコットをつけた男の子なんてまず居なかったし、つけていそうなひとを思い出すとしても、単にあまり見向きもされないタイプのギャグの一種だったと思う。男の子の通学鞄に藤子絵のドラえもんとか、あるいはミッフィーの顔がついているならまだ可愛いけど、今時見掛けるマスコットは、得体の知れない青いディズニーキャラクターとかが殆どなので、それの名称もよくわからないわたしにはそれがいったい何のつもりであるのかすら、まったくよくわからず、ポカンとしてしまう。痩せ型でメガネをかけていて将棋だけは強そうな男の子の鞄に ぶらぶらとディズニーマスコットが揺れていたら、わたしが高校生だった時代なら、影でおそろしい顰蹙をかったであろう。女子高生がミニーちゃんの何たらを鞄につけるのは、今もむかしも永久に不滅のトレンドだけどね!わたしが女子高生だったときは、おべんとう箱の絵にだけ ミッフィーがいた。

仕事。この日渡された仕事は、ロシアで発表するニュースリリースマトリョーシカサモワール・エフゲーニイ・チェーホフ・かもめ かもめ かもめ……余計なことばかりが脳裏を掠める。しかし、ロシア語の原稿は読めないけれど、ロシア現法の駐在員が執筆した下訳があまりにもひどくて噴き出してしまう。ロシアでロシア語と格闘しているあいだに、日本語能力が著しく低下してしまったのだろうか?翻訳調で、懐古主義で、比喩や修飾のいちいちが、この世が終わるか始まるみたいに大袈裟だ。謙遜という概念がまるでなく、爆発的に自己主張している。同じ会社なのに、国が違うだけで企業のキャラ設定があまりにも違いすぎて怯んでしまう。それでも、アメリカやイタリアの原稿に取り組むときより、ずっと、ロシアは自分の好みだと思う。ロシア ピアノ サモワール…、レイアウト途中の写真の配置や画質も、妙にひとむかし前の古くさい香りがしてほくそ笑む。しかし原稿書きはまだまだ続く。ロシア発の原稿は 大袈裟で大真面目で、その癖にあまりにも間が抜けているので。

昨日から、下の歯の下の歯茎が腫れたようになって、しくしくと痛む。歯茎に限らず 疲れていると、身体の左側のどこかが化膿したり腫れたり熱を持ったりすることがある。ロシアの原稿を書きながら ちょっと今回は我慢ならない感じがしたので、慌てて予約の電話をかけて、21時が最終受付の近所の歯科医院へ飛び込んだ。入り口は狭いのに、歯医者イスが10客もあり、こんな時間なのに歯科医が5人も6人もいる。当然、勤め帰りの患者で待合室もいっぱい。歯医者工場、のようで、一瞬驚いたものの、応急処置をうまくやってくれて良かった。待合室でパラパラとめくった雑誌で、偶然 驚くべき発見をする。マンションの隣の部屋の夫が写真入りで載っていた。お隣の若夫婦はちょうどわたしたちと同世代だけど、ビジネスマンではなさそうだし何の仕事をしているのかな?と時々見掛けるたびに思っていた疑問がようやく解決。有名人だった。しかし、その隣室の夫の好きな本やら好きなバンドやらが紹介されているページがあって、それを読むと 好きな本も好きなバンドとWRとほとんど同じである。うちのマンションは、ワンフロア毎に2家族しか入居できないつくりになっているので、うちの家と お隣のその家、壁を隔ててくっついている2軒の家に、ほぼまったく同じ作家の本や 同じバンドのレコードが、ずらりと並んでいることになる。WRも 隣室の夫も、隣近所と仲良くなる趣味など到底ないとはわかっているけど、壁一枚隔てた空間に、ここまで趣味がそっくりな男が住んでいるのは異常な事態だとも思う。しかし、人生は大抵 こんな永遠のニアミスのようなものの連続なのかもしれない。今日は、春で、暖かかった。WRは残業で毎晩終電に乗っての帰宅。わたしは明日も歯医者行き。