花のいのち

トップアイドル・草なぎ氏の事件が 平和な日本に衝撃を走らせている昨今。個人的に、とてもタイムリーなことだけれども、実はわたしもほんとうに最近、彼が出演する某番組の撮影に関する仕事をしていた。なので、草なぎ氏の謝罪会見の席上で、あのような場での常套句「関係者の皆さまに、多大なる迷惑をお掛けしましてまことに申し訳ありません」というフレーズが発された瞬間、「関係者…!?こ れ は わ た し に 謝 っ て い る の か 」と半ばほんきで勘違いした。そして「いいよ、いいよ、まじでぜんぜん気にしてないし」と即座に思った。

草なぎ氏レベルの有名人かつ仕事量の方であれば、事件が起きた一日を中心にして考えるだけでも、あたかも水面に広がる波紋のように 何百人もの人間が瞬間的に「関係者」に該当してしまう。たかが全裸くらいで、というのは誰でも思うし、同情もする。決して彼を他人と思えず、草なぎ氏に対する好感度がメキメキと急上昇したひとも多いと思う。でも、そんなことより なにより、ファンじゃなくても日本に棲息している以上SMAPを目にすることなしに生きるのは困難という状態の国民全員にとって、これはあまりにも面白すぎる出来事だった。

「お酒を飲んでも決して全裸にならないひと」という確固としたイメージで何十億とか何百億とかの経済効果を生んできた以上、そうじゃなかったことがこのようなかたちで見事に露呈したことは、ただひたすらにショッキングである。当日の彼の行状に関しても詳細に報道されていて、「裸で何が悪い」と言ったとか 仲の良いSMAPメンバーの名を呼んだとか 色々あるけど、いちばん凄いと思ったのが(服を着るように促した警察官に対して)「 さ わ る の で は な く 、つ ね っ て く れ たま へ」と言ったらしいということ。これがほんとうなら、すごい文才。泥酔とか全裸とかはくだらなすぎてどうでもいいけど、この輝かしいフレーズには、尊敬の念しか浮かばない。

会社では またトイレで泣いてる女子がいた。今月の泣きは仲の良いミスソフィアちゃん。仕事上で呼ばれた招待ライブが、残業と認められないとか何とかで、鏡の前で少女漫画のような大きな瞳に、今にも零れ落ちそうな大粒の涙をためている。

彼女の言い分の是非については、あまり語る必要もないというかノーコメントだけど、同じ世の中なら美人がぜったい得をする、というのは個人的には迷信だと思っている。彼女は、部署内でいちばん若く、わたしが判断する限りいちばんきれいで可愛い。営業部ではないけれど、会社そのものの営業部のようなこの部署であっても、彼女のことを きれいとか可愛いとかで評価しているひとはひとりもいない。直接的な営業数値は出ない部署だけど、素早く正常で的確な判断が出来、仕事を利益に繋げることのできるひとが信頼され、次はそれ相応の仕事が下る。彼女はせっかく若くてきれいで可愛いのだから、駄々を捏ねてトイレで泣くなんてみっともないことはやめにして、もっと頭を動かせばいい。すごくいいのに。アーティストとのお付き合いに限らず、不況下では、みんなが憧れるような華やかな仕事がまっさきに削られる。花の命は短くて、苦しきことのみ多かりき。これは林芙美子。でもわたしは前半にしか賛同できない。花の命と、苦しいことは全然対比にはならない。花の命は短く、花であることや花と見せかけることも、花の命が終わることと同じくらい、苦しいものではないだろうか。

金曜日なのに、何処にも寄らずにまっすぐ家に帰る。月曜から金曜まで、放課後は誰ともあそびに行かなかった。