ムーミン展、ともだちの夜

近所の近未来風の若者カフェで この日最初の遅すぎる食事をとって、WRと二人、丸の内を目指す。東京駅の大丸ミュージアムで「ムーミン展」が開催されているので。ムーミンに関しては、わたしよりもWRのほうが圧倒的に造詣が深く、その愛は半端なく深い。トーベ・ヤンソンの原画のボリュームも大変なもので、思ったよりも随分見応えのある展示だった。個人的には インクで丁寧に描かれた「習作」を目にすることができたのが面白かった。ムーミンママがしゃがんでお花を摘むうしろ姿ひとつとっても、7個も8個も似たような絵を描きこんで、納得のいくアングルを採用する。紙一面にムーミンママの丸い背中が描かれているさまは 心洗われるものがある。ホルンの音色をもっと聴きたい、と願っているサロメちゃんは、この絵のなかに出てくる生き物たちにひとつも似ていないわたしが、唯一似ている生き物だと感じた。顔と髪型と服装とそのサイズが。壁にずらりと並ぶ原画には途切れることなく見物客の行列ができていたけど、会場中央各所に飾られている ガラスケース入りの「ムーミン箱庭」には、人っ子ひとり注意を払うひとがいなかった。しかし、インク画で描かれた原画ムーミンよりも、ガラスケースの中の石膏のようなものでできたこちらの立体ムーミン像のほうが、質感とかの面において、わたしの中の個人的なムーミンの実像に よりいっそう近い。これだけムーミンファンが揃っているのに、誰からも見向きもされていない立体ムーミンであったが、わたしはとても良いと思った。

記念品コーナーは、残念ながら「商業ムーミン」のほうのグッズで溢れ返っていた。これからやって来る梅雨の季節を憂いてムーミン傘を買おうかどうかしばらく迷って、買うのをやめる。

ムーミン展のあとは、丸ビル丸善に立ち寄る。いつ再発されたのかわからないけど、ずっと欲しかった「ワイマールのロッテ」が大量に岩波棚に並んでいたので速やかに入手。良い本と悪い本を半分ぐらいずつ購入。

良い本↓
ワイマルのロッテ (上) (岩波文庫)ワイマルのロッテ 下 (岩波文庫 赤 434-3)大洪水 (河出文庫)

悪い本↓
累犯障害者 (新潮文庫)実録 死体農場 (小学館文庫)

夜は家の近くの飲み屋で、サークルの友人7、8人とワイワイガヤガヤお酒を呑む。学生時代、仲間うちの何人かがアルバイトをしていた店なので、ビールを飲んで、お料理を頼んで、焼酎をボトルでとって…厨房一人、ホールに一人しか店員がいない、個人経営の小さな店なので、ビールが遅いと友人が直接サーバーに注ぎに行き…と好き放題にやっていたのに、さいごのお会計が一人\1600だったので、申し訳無さなど軽く一瞬で通り越して、さすがに笑う。安くしてくれすぎだろう。会は深夜0時にお開きになり、WRはそのまま帰宅。わたしは石井さんと二人で真夜中の珈琲を飲みに。途中、何かを探してソワソワと急いだ様子の大学生風の男に、ライブハウスの場所を訊ねられた。確かにそこはビルの中のわかりにくい場所にあり、幾ら真夜中にこの辺りをほっつき歩いているひとでも説明できるひとはそうはいないと思ったので「ここの道をまっすぐ行って、最初の角を右折したら古着屋の看板が見えるので、それを目印に、こっちであっちで」と懇切丁寧に教えてあげた。なのにその大学生風は「ありがとうございます!助かります!」と非常に礼儀正しく 爽やかに答えるやいなや、今 教えたのとは正反対の道を駆け出して行ってしまった!人の話をまるで聞いちゃいない。お前の就職が 是非氷河期でありますように、と 闇夜に遠くなっていく大学生風の背中に念じておいた。