自動車電話の思い出

受付嬢のC子さんと ねこの話題で盛り上がる。C子さんほど美人で可愛い受付嬢は、世界の何処を探しても此処にしかいないと思う。マカロンとマシュマロと金平糖といちごとチョコを、ぜんぶ合わせたよりも可愛い。彼女の年齢を知ったら、みんな卒倒すると思う。若い。可愛い。若すぎる。C子さんは間違いなく会社の宝。野球部が都市対抗選に出場したとき、応援に行った社員先着300名に配られた非売品のマスコット人形、C子さんが到着した時間には300体ぜんぶ完売してしまっていたらしいけど、翌日「マスコット貰えなかったんですよ…」と話の流れ上 一人の社員に話したところ、その日一日だけで計17体のマスコット人形がC子さんのところに貢物として届けられたというから凄い。

今度、同時期入社のSMさんとC子さんのふたりと一緒に お酒を飲みにいくことになっている。C子さんは わたしやSMさんよりずっと会社でのキャリアが長いのに、受付嬢仲間以外の社員と仲良くなったのははじめてだという。確かに わたしの部署のひとたちも 彼女の顔を知らないひとはいないのに、名前も知らないどころか受付前を通過するときに挨拶も会釈もしない。特に意味はないことだからこそ、内心とても意味深いことのようにも思う。性格や趣味とかのび微妙な部分の差異以前の、最も根源的な属性による隔絶。誰も意識しないけど「…あの子とわたしたちとは違うよね」という巨大な暗黙の了解が成立している。それが悪いわけではなくて、むしろ自分がそういう女的な感情に非常に敏感な部類の女なので 過剰に感じ取ってしまうだけなのだけれど。何はともあれ、飲み会の日が今からとても楽しみ。何の話になるだろうか。

雨降りの予報が外れる。終業時間の鐘と同時にやる気もちょうど消失したので、さささ、とデスクを片付けて 早目に会社を後にする。帰宅してダラダラしているとWRがまさかの早目の帰宅。ごはんがない!No ごはん Noライフというわけで、WRはあまり食べたいものもなさそうだったけれど、外に食事に出掛けてすぐ戻ってきた。わたしは今 IKEAでねこ人形に出会った時以来、ひさしぶりに心から欲しいものがあるので、それが載っているインターネットを濫読しながら夜を過ごす。全然関係ない話だけど、むかし 携帯電話など存在しなかった時代、父の車に「自動車電話」が設置されていた。汎用性がなさすぎる代物。あと会社のデスクの固定電話に、妻や子が平気で電話を掛けてきていた時代でもあったと思う。妻が「あ、お父さん?今日病院の後 中村さん家に寄ったら遅くなっちゃって買い物に行けなかったから、帰りにタマゴと挽肉買ってきて。あ、あ、あ、あと安かったらケチャップも」みたいな電話を仕事中なのにへいきで。携帯電話どころかコンビニや夜間営業のスーパーも今ほど爆発的には普及しておらず、世の中の回り方はそんな風だった。さすがに幼児だったので記憶もおぼろげではあるけど、ぼやっと眺めていた大人の生活と今が大分違う。現代人はだいいち男も女もみんな幼い。幼いけれど、自分は大人で、大人というのは嫌なことを忘却する速度が異常に早い。嫌な気持ちになっても、1日か2日か3日も経てば どんどんどんどん薄まって、嫌な気持ちになったことは憶えていても、その嫌な気持ちは完全に忘却する。ぼんやりしている間に、季節が過ぎている。