山手線上

お昼前に起きて映画。早稲田松竹でマドンナが撮った「ワンダーラスト」を観る。二本立てのもうひとつ、カサヴェテスの娘のやつは今日はパス。マドンナの映画は、深夜11時にテレビを点けたとき偶然流れてきたのでついつい嵌って2時まで観てしまうちょっと良いテレビドラマ、という感じで、主人公のひとりの娘、バレリーナでストリッパーのホリーちゃんがとても可愛いかった。実際のところ、バレリーナでストリッパーで二つ結びで貧乏なわたしには、ホリーちゃんが他人事じゃない。マドンナのことは顔しか知らず、ジャネットジャクソンとの違いももはや判然としない上に、そもそも正直に言ってしまうと、わたしの中でマドンナと云えば、漱石に出てくるマドンナでしかない。歌手のマドンナの場合は、とどのつまりは「ヒーローは あなたの中にいるのよ」とか歌ってしまったマドンナであるので、この映画のラストや読後感も、これは全く不思議ではない。予告で流れていたこと以上の出来事は何も起こらなかった、ということは、この映画の予告編は、ストーリーの最終版として、さいこうに素晴らしかったのだろう。この映画は、ホリーちゃんの下睫毛のアイラインを見るためにあるのだと思った。

映画のあと 好奇心で副都心線に乗って、池袋へ。ジュンク堂で書籍を買う。さいきん、立て続けに知人が本を出していて、聞いてはいたけれどどれもこれも渦高く平積みになっているので 内心「う…、」と思いつつ、恥ずかしい本を買うように、というよりは恥ずかしい本でしかないそれらをコソコソと購入。ついでに岩波文庫の新刊で出ていた久生十蘭の短編集も買う。WRも勿論本を買っていた。

ジュンク堂を後にして、その後は 一路 山手線に揺られ揺られて、いざ原宿に 降り立つ。キャットストリートにもルイヴィトンにも目もくれず、表参道を凄い勢いで闊歩して、キディランドへ。昨日から楽しみにしていた、雪んこ人形(仮名)を買いにきた。しかし、類似品はあるのだけど、目当ての人形は品切れであった。泣く泣く予約票に記入をして、取り寄せてもらうことにする。実は、ジュンク堂に行ったあと、WRの勧めによって池袋サンシャインシティとかいうクソ外道すぎるショッピングビル内部にある「トイザラス」的な店にも立ち寄っていたのだけど、そこには雪んこ人形(仮名)の影もかたちも見当たらなかった。あんなに楽しみにしていたのに、結局この土日のあいだに手に入らず、がっかり。WRと近所のイタリアンでマルゲリータを食べて帰る。前菜のサラミとか、ナスの冷製とか、トマトのサラダも美味しかった。しかし、それより何よりランブルスコがめちゃくちゃ美味しい。ワインよりはシャンパーニュが好きで、白ワインより赤ワインが好きなわたしには、こんなのってさいこうの飲み物。ランブルスコが好きになった。

日が落ちた夕方からの夜風が 震えるほど冷たい日。それでも春の夜には、真冬の空のあの硬質の厳しさがない。暗闇も暗すぎることがなく、月明かりも鋭すぎることがなく、春の夜の空の下では 空きっ腹に一杯だけ飲んだワインで いともかんたんに ふらふらふら、と酩酊してしまう。読みかけの本を胸の上に開いて置きっ放しのまま、眠ってしまった。