サティアン

しごと多忙。今の今迄自分は、損得、特にお金に関しての損得には殆ど無関心に、無欲に過ごしてきたのだと今更になって知る。今、自分が責任を負わされ、任されていることは、きっと途方もなく割に合わない。知らず知らずのうちに享受しているはずの恩恵についてはすっかり忘れ、自分はお人好しの大馬鹿だ、と猜疑心に駆られたりするのだ。

夜、豪雨の中、WRと家の近くの見知らぬカフェに入る。お客は、わたしたちを除いて誰もいない。入店後暫く経つと、シフトの入れ替わりなのかバータイムの準備をする為の定員までやってきて、狭い店の中、店員の数の方が圧倒的に多い。そして、段々まるで見知らぬひとの家に上がりこんでいるような気分になってきて、食事もとても喉を通らなくなってしまった。

店の女性(完膚なきまでのノーメイクで、ノーカラーノーパーマでお尻の下まで伸びた長い髪を、輪ゴムで一本に束ねている。痩せた身体に、麻のような素材のぶかぶかのスモックを着て、インド綿のような、寝巻きのような素材のズボンを履いている。インド放浪系とかスピリチュアル系のカテゴリを超えて、ひじょうに新興宗教を連想させる)は、占いをやっているだとか言って、10分1000円だとかいうタロット占いを紹介してくれた。要らない。けれど、何故か無碍にはできない。なので話だけはちゃんと聞く。占いを薦めてくるその占い師の女性は、わざと敬語を使わないで話す。ともだちのような口調だけど、自分のともだちの中に、そんな口調で話すひとなんて一人も居ないから、ともだちのような口調だけど ともだちに成りすまそうとしている悪人のように見えてしまう。そして、その口調は 何かベタベタとした粘着質な話し方なので、お金を払って彼女の占いを拝聴するなんてとても考えられない。結局、食事は半分も食べられなくて、途中のコンビニでチョコアイスを買って家に帰った。

雨。雨。大雨。ひどい雨。シンクにも、お風呂場のタイルにも、前の家から移動してきた古いままのカーテンにも、やわらかい苔のような、深緑の黴が。