湿度はいつも良くない

会社で。辛いことでも 悲しいことでも 苦しいことでもなく、ただ“打ち沈む”としか表現できない ある出来事に遭遇し、役割とか 必要とか 疎外とか、そういうことについて考えていた。過干渉や無関心だけがひとを追い詰めるわけではない。物理的にひとりでいることや、言葉の意味を分かち合えないことだけが疎外されるということでもない。偽会社員として社会に紛れ込んでいることは、お金にはならないけれど 知れることは様々にある。おはなしが変わるごとに 偽家政婦や偽看護婦になる、漫画の『おろち』と同じで、わたしは客観的な気分でいるのだ。

この1年半のあいだ、毎週 月曜午前に開催されつづけてきた会議。例えばこの定例会議は、わたしだって何十回出席してきたかわからないけど、毎回かならず 1時間以上遅れて終わる。予定通りに終わったことが一度もない。なのに、スケジュールの上では、この先の未来も永遠に、この会議の終了時刻は11:30となっている。最初から終了時刻12:30で召集するか、もしくは任意の終了時刻を厳守しませんか?とさり気なく提案したこともあったけれど、40歳のおばさんに いかにも愚かなアイデアだというふうに一笑に付された記憶がある。万事が、一事が万事が、こういうふうに嘲笑されていく場所なのだ、此処は。

治療中の歯がいたくなった。夕方電話予約をして、慌てて歯科医院に駆け込んだ。ゴールデンウィークを挟んだ為に、次の予約を入れることをすっかり忘れて、4月の終わりから治療途中で放置状態になっていた箇所。

今通っている歯科医院は、21時まで受付をしてくれるので、いつも 待合室は 仕事帰りの会社員で溢れている。歯科医も常時4名はいるし、診療椅子も沢山ある。この日は、はじめて最奥にある ついたてで区切られたスペースに案内された。今まで座ったことのある診療スペースは、鳥の囀りのような環境音楽が背後に流れ、世界遺産のカレンダーが貼ってあり、かわいいどうぶつの人形が置いてある、街場の歯医者然とした場所だったのに、この日通された場所だけは雰囲気が異様で、左半身が筋繊維で右半身が神経線維になっている人体模型天井から吊り下げられており、椅子の周りには歯が剥き出しになった頭蓋骨の模型が5つもゴロンと散乱していた。音楽も、他の診療椅子とはスピーカー自体が違うのか、「コンドルは飛んでいく」が笛の独奏でリピート再生されている。エプロンも、膝にかけるブランケットも、このコーナーだけは悪魔趣味のように黒一色なのだ。パンクを表現しているとも受け取れるし、通院サボリの患者を優先的に座らせる 地獄部屋のようなポジションを担っているのではないかとも感じた。次は土曜日に行く。

歯医者の会計を終えたところで、仕事帰りのWRと合流。カフェに寄る。そして今日の昼間の出来事を話す。会話は、薬でもあり毒だ。薬にもなるし毒にもなる、という意味ではなく、薬と毒が両立する。宥めても怒っても、ニュートラルに収束していく。わたしがやりたいことにも、予備校があって ドリルがあって 季節毎に模試があればいいのだ。そうすれば、一日20ページずつ進んでいける。そしていずれは習熟し、到達する。でも違う。ねこを 競馬レースのゲートに入れるようなものだ。だって、わたしはひとつのことしかできない。