ラウドマイノリティー 6月の豪雨

【宣伝】今 むちゅうのブログ
http://d.hatena.ne.jp/marumichan/


夜になって、雨が降り出す。

WRと待ち合わせをして、新宿のジャズバーに行った。部長宛に毎月届く、ライブやコンサートの案内状に小さく書かれたあるひとの名前を見つけたので。わたしは以前から、そのひとの音楽を 一度 聴いてみたかった。

夜にかけて豪雨の予報のせいか、平日のせいか、3回転するステージのいちばん最初だったせいか、それともいつもこんな風なのかはわからないけれど、結果として わたしたちが居た時間の観客は、ふたりだけだった。小さなジャズクラブ、とは言っても わたしが日常的に出掛ける中で、“小さなライブハウス”と認識している場所よりは、随分広い。わたしたちはお酒を頼み、ステージに向かってほぼ中央の席にぼうっと腰掛けていたのだけど、ライブというよりは 広いスタジオにお邪魔してリハーサル・セッションを眺めているのに近い状態であったし、ステージ上のジャズトリオの人々も、それに近い錯覚に陥ったのではあるまいか。

しかし 音楽は とても良いものだった。大雨の火曜のお客がいない破れかぶれの夜にふさわしい、控えめで贅沢な音楽。ベルベッドのソファの座り心地も気に入った。わたしもWRもいたく満足する。世界中で、たったふたりだけの観客。それは たとえば大雨の夜、雨宿りのために迷い込んだ洞窟の中で 奇妙な演奏会に出会うことからはじまる物語みたいに、物語的な体験であったし、彼らは アンラッキー・ヤングメンだし、わたしはたったひとりでステージを眺めていた何年か前の同じ夜を思い出していた。

ライブは ステージと観客が一体となってつくられるなんて 時々言い出すひとがいるけど、わたしはどんなライブでも一体感なんて気持ち悪いものはまっぴらごめんで、いつも ただ自分の内面に沈潜したり、そこから何かを見つけ出すために 音楽を眺めに行くのだと思う。仮に今夜 わたしたちがいなかったとしても、ほんとうの音楽はいつも変わりなく其処にある。なんておもしろくて、なんて悲しい世界なんだろう。

ビバップのルールを教えてもらいながら新宿駅まで歩いて帰る帰り道、雨は いちだんと激しさを増して、街全体が まるで水槽だった。靴も靴下も傘も肩も、わたしたちは 魚のように びしょ濡れになる。