恵比寿 路地裏

お昼までゴロ寝。WRは 一度わたしが目覚めたときは、先週手に入れたポータブルDVDプレイヤーでしごとの為の勉強に励み、次にわたしが目覚めたときは、洗濯籠を両手に抱えてお洗濯に励んでいて、さいごにわたしが目覚めたときには、トンカチ片手に額に汗して、新しく届いたIKEAの本棚を組み立てていた。到着するや否や完成された本棚は、白くてぴかぴかで、まるでまるみちゃんのアパートのようだったので、わたしはまるみちゃんと まるみちゃんが好きそうなロシアのバレエ団の公演で買ったマトリョーシカや、りすの絵のお菓子の空き箱や、ねこのキーホルダーを飾って遊んだ。WRが3時間勉強をして、洗濯をして、洗面所のお掃除をして、本棚を受け取って組み立てた間、わたしはずっと眠り呆けていて、さいごだけ起きて 出来立ての本棚をまるみちゃんのアパートにして写真を撮った。わたしはどんどん役立たずの奥さんになっている。犬を連れた奥さんよりも もっともっと 役立たずの奥さん。単にまるみちゃんとねこを連れた奥さんだ。

眠りから覚めた、午後3時の外は猛暑。WRと一緒に、近所の服屋に WRのズボンを買いにいく。WRが試着した、鮮やかなグリーンの細いパンツは WRにとてもよく似合って、店員も感嘆していた。WRは WRの服だけを見にメンズしかないセレクトショップに入っても、一刻も早く選んで一刻も早く帰りたい!という風に絶えずそわそわと する。WRの服の趣味がわたしはとても好きだけど、自分ではどんなに好きな服を買うときでも、居心地が悪く、さっと掴むように服を選んで、レジで会計を済ませたら、脱兎の如く店から逃げ帰っていたのだという。今は わたしと二人で買いに行くのでそれでもまだマシになったらしいものの、ひとりで買い物に行くときは、店員に話しかけられるのを未然に阻止すべく 絶対に立ち止まらないように常に店内を高速で歩き回り、欲しい服を見つけても移動を止めず横目で盗み見ながらチェックして、何周か高速巡回を繰り返したのち、さいごに急旋回しながらひったくるように服をもぎとって 商品をレジに突き出していたらしい。話だけ聞いていると、まるで万引き犯のようだ。

ともあれ、男のひとがズボンを買うときは丈詰めの必要もないらしく、素敵に細い鮮やかなグリーンのズボンを買うことができた。わたしは駅まで送ってもらって、友紀ちゃんとの待ち合わせ場所 恵比寿へと向かう。駅の近くで、WRの勤務先の後輩の男の子が、ガールフレンドと手を繋いでデートしている姿を目撃してしまった。ふたりとも、白いポロシャツを着ていて、とても爽やかでとても可愛らしい。スニーカーショップの前で、ナイキのスニーカーを指差しながらウィンドウショッピングなんかをしている。まだ恋人同士じゃなくて、あたらしいガールフレンドという感じが、もう、何も聞かなくてもわかるのだ。レモンスカッシュのようなふたり。世の中には どくだみ茶のようなカップルや まむしドリンクのようなカップルだって溢れているので、とても心が洗われる光景だった。

恵比寿で 2週間振りに友紀ちゃんに会う。聞きたいことがいっぱい。モナリザでフレンチを食べるかどうか迷ったけど、結局「夏だし、ビール飲みたい」ということで、通りすがりの琉球料理屋に入る。ゴーヤーチャンプルのたまごの味がやさしくて美味しい。友紀ちゃんに「ねぇ、そういえば、“まるみにっき”っていうブログ知ってる?可愛いんだよ」とさり気なく聞いてみたところ、「う、うん…。一回か二回、読んだ。ま、また今度から見てみる、見てみるよ」と言葉を濁されてしまった。忙しいのかもしれないけど、“まるみにっき”を愛読していないなんて 信じられない。ビールと沖縄料理の後は、駅前のカフェでもう一度珈琲を飲んで、帰る。友紀ちゃんも 多忙ながらも平穏で幸福な日々が続いているようで、嬉しい気分になる。夏の昼は大嫌いだけど、夏の早朝の森の中のような静けさと、夏の夜の 闇がゼリーみたいに凝固した肌触りはとても好き。集まりの時刻が早かった為に、深夜になる前に今日は帰宅。家に帰ると外での読書から帰宅したばかりのWRがいた。まるみちゃんが、急にげんきに おうたの練習を再開しはじめたので、ふたりして よろこぶ。まるみちゃんは、ちょっと考えられないくらいステキな歌詞とメロディのうたを、「がんばるもん!」と言いながら、繰り返し繰り返し 練習している。