霧の中で

土曜日だけど 頑張って午前中に起きる(起こされる)。正午に家を出て、半蔵門に飛び乗り神保町へ。毎週会社のデスクに届く「週間SPA!」を持ち帰ってWRと共に愛読しているので、そこに連載されている坪内・福田対談のトークショーに行ってきた。去年も行った。今年は トークショー開始前に 紙キレが配布され、両先生に質問したいことを書き込む形式になっていて、一緒に行った WRやテツオはいかにも小難しそうな(でもほんとうは小難しくない)政経ネタと出版の時勢ネタを質問していたけれど、そんな くすぶり政経コンビ君にはお構いなしに、なんと わたしの質問が 誰よりも先に 選ばれたよ!ワァイ!!!

昨年同様、両氏の会話は砂漠に水が流れて跡がついていくみたいに 脈絡なく何処までも繋がっていって 面白かった。自分の学生時代に こういう先生のゼミがあったら、教授と飲みにいきたいと思ったり、もっと沢山本を読み 貪るように勉強したのだろうか、などとも思うのだけど、実際 自分が大学生だった頃も 有名教授というのはいて、有名教授の有名ゼミに属することが学内のステイタスだったりする風潮がふつうに存在していたのだった、わたしは「師」のようなひとに懐いたり、そういうメインストリームに属したりするのが嫌で苦手で出来なかったし、今もし仮に同じようなチャンスが訪れたって、嫌で苦手でできないと思う。憧れたり尊敬するようなひとが もしも いたら、自分からわざと離れていってしまう。遠巻きに眺めるだけで、すぐにそうしている自分が嫌になってしまう。だからそういう師弟関係は 到底ムリだ。だから こういう先生方のお話は、成績も出自も性格も明かさなくて良い安全な場所から見ているのがいい。2時間のトークが終了した後、WRとテツオと3人で喫茶伯剌西爾へ行き、冷房の効きすぎる地下席で シロップ入りの不味いアイスコーヒーを飲んだ。後ろの席では、論文を出版する院生のようなひとが トランスジェンダーに関してのインタビューを行なっていた。シロップ入りのアイスコーヒーは 結局最初の一口以上は飲み込めなかった。麻生首相がサミットから戻る日なので、テツオは夜から仕事だと言う。わたしとWRは 新宿に移動して、秋口に閉館予定のタカシマヤタイムズスクエアで映画を観る。そのまえに大慌てでCDを買う。しごとで使う音楽と そうでない音楽 両方がある。

綱渡りのドキュメント「マン・オン・ワイヤー」を観た。ノートルダム寺院の屋根と屋根の間の空を渡っていく映像が とてもきれい。薄曇りの空の高い高い高いところ、電線に留まるツバメよりももっと高い所を渡っていくひとを 見られる きれいな映画だった。映画のことはいつもわからない。わからないので、わたしは映画で この世のものとは信じられない、きれいなものを見ようと この映画を見て決めた。夢を叶える、というと途端に安っぽく思えるけれど、心に秘めていた望みが結実して、それと引き換えに 大きなものが奪われる残酷さもいい。主人公のフィリップは 過去をそのままなぞるだけで映画が作れてしまうくらい変なひとだけど、やっぱり変だけど 恐怖心も名誉欲も持っていて、アナーキーすぎない。ちょっと狂っているように見えたとしても、アナーキーすぎないふつうのひとが好き。ピアノの音。ベートーベンの指が鍵盤を滑る音が わたしたちには聴こえない空の彼方の足音になる。土曜の夜の映画館はガラガラだった。映画が終わり、新宿駅に戻ると 人身事故で見事に電車が止まっていたので、フィリップが落ちて死なずに線路に落ちて死ぬひとがいることが不思議だった。電車ですぐのところを、別の電車で迂回して帰る。わたしたちの好きなスープカレーを食べに行く。わたしだけビールを頼むと、当たり前のようにWRの前にジョッキが運ばれてきた。喫茶店でもレストランでも ビールを頼むのはわたしで、カフェオレやプリンを頼むのがWRなので、ウェイターは いつもあべこべに料理を運んでくる。大充実のわたしの土曜日。

マン・オン・ワイヤー

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