日々と薫香

決算発表直前。ようやく業務が人並みに多忙になってきたので、何か頼みごとをしてくるひとにも「今ちょっと忙しくて…(テヘ)」と応えるなどして、求められてる感を ひつよう以上に醸し出しておいた。今日は 会社にいても、きぶんがいい。

夕刻、WRから「今日は早く帰れそうだから、雪んこの会社の辺りまで行くから二人で散歩して帰らない?」とのメールが着たので小躍りしたけど、続けざまにすぐ「ゴメン。やっぱり残業になった」という旨のメールが届き、小躍りの足をピタリと止めた。

わたしは、今ではすっかりもう、夕飯の支度が嫌で嫌で嫌で、週に2度までは大丈夫かもしれないけれど、3度となると、もうほんとうは 自分の立場をぜんぶ忘れて暴れだしたいほどに嫌。だって 例えば美味しいとか不味いとか栄養に良いとか悪いとかには関係なく、コンビニのおべんとうを夕食にする場合、準備する食べる片付ける全工程を合わせたところで15分もかからないのに、かたや自炊となると、食材の買出しの時点で、どんなに急いでも20分はかかる。満員電車に揺られて帰って、そのまま大混雑のスーパーマーケットに直行して、大行列のレジに並び、買い物袋をブラ提げたまま、開かずの踏み切りを待ち続ける。10分も15分も開かない踏切を待ち続けながら、泣きそうになる。たしかに家で食べる夕食はコンビニの100倍美味しいかもしれない、だけど、帰宅してからも家事に追われて戦争のようで、夫からは文句なんか言われないけど、それでも相手が帰ってくるまでの間に出来る限りのことをしておきたい、なんて思ってしまったら、わたしはずっと 珈琲一杯飲む時間どころか 椅子に腰掛ける瞬間もなく、お米を洗ったり野菜を切ったり洗濯物を畳んだり掃除機をかけたり鍋に湯を沸かしたりゴミ袋をしばったりして、だけど、別に毎日がこれできれいに完結すれば、気が狂いそうになるとかそういうことはないのだけど、夕食の後片付けがすべて終わったその瞬間に「さぁ、あとはゆっくり読書しよう!」って 誘われて、それに応えたくても わたしはすでにクタクタなのだ。絶望的に。本なんて開いても4行で睡魔に襲われる。そしてそんなことをまるで考えていないような顔をしながら、毎晩 毎晩 むかしのわたしのようでないわたし自身に罪悪感を持つ。読書する時間の至福は知ってる。だけど、その至福の為に生きるなら、食事の支度に 無駄な時間と体力をかけるなんて、バカバカしくて、とてもできない。時間も力も削られていく。一日中 仕事と家事に取り組んでも、本を読んだり創作活動に手を染めないかぎり、わたしは ふつうのひとの一人分の仕事もしていないと見做されるだろう。踏切を待ちつづけながら、いつも叫びそうになる。今疲れているのではなく、数時間後、かならず疲れ果てるだろう、という重たく確実な予感のせいで、先回りして叫びたくなる。魚臭いわたしの指先。こどもの頃、魚を調理した後の母の指先も 今夜のわたしと同じように魚臭くて、石鹸で洗ったというけど魚臭くて、「魚臭い手で触らないで!」って 母にあたって怒鳴ったことを、ふいに思い出したりした。


これほどまでにやる気を喪失しながら 自分を奮い立たせて作った夕食を咀嚼することは、添加物だらけのおべんとうより、身体に良くない。WRには悪い奥さんでごめんなさい、と 思う。食事の支度なんかより、わたしには 多分 もっともっと大きな犠牲と絶望が必要だった。

わたしが「SPA!」に出たのは先週で、今週は「モーニング」に おともだちの若菜ちゃんの漫画が載ってる。「モーニング」なんて、漫画雑誌なんて、8歳以来買ったことがないから、コンビニの棚のどこの辺りに置いてあるのかもわからなくて、エロ本の表紙と見分けがつかない漫画雑誌も沢山あって、気がつくとおかしな棚を必死で物色していたので、傍で立ち読みをしていた男の人からは、風俗嬢か休日のAV女優だと思われたかもしれない。「モーニング」の表紙は、エロ本のようではなくて、どちらかというと「週刊文春」や「週刊新潮」のテイストに 似てる。

……「チャッカマン」面白かったよ!冒頭〜中盤辺りがかなり面白くて、やがて結末へ進むに従って中だるみしたけど、面白かったよ!彼が監督した幻のインディー映画より、9倍くらいは面白かった!あと、デビュー作だからぎこちない感じがするけど初々しさがまるでないところが良いと感じた!

みんなも 是非 読んでみてね。ああ そして、わたしがぜったいに絵には描けない物語を いつか漫画に描いてくれたら、とてもうれしい。


http://morningmanga.com/news/232



生業と家事の両立なんかに悩んで 精神を錯乱させているわたしなんて、正真正銘のバカだ。悩む内容を、前提を、限界設定を、わたしが生きて死ぬまでのあたりまえの約束を、まるっきり間違えて、すっかり取り違えてしまっているのよ。決算資料で指を切ったり、魚のうろこを剥がしたり、ビスケット齧って泣いたりしている場合ではない、ほんとうはね。