ハート&ランド

あと一週間で夏休み。普段の月曜日は憂鬱なだけなのに 来週に迫った夏休みを予感するだけで、出勤も おしごとも 浮き足立てて 楽しい。非日常が快楽なのではなくて、非日常の予感こそが 快く楽しい。1時間ほどの議事録の音声ファイルを舐めるように聴いて、月に1度の恒例の原稿書きをする。未だ随分と不況です。物を売る方法を思案していること自体、もうすでにふるい。物が欲しいひとなんて、そんなの ふるくて つまらないひとのように 見える。

ランチタイム、先日TV取材の仕事をしてきたというZさんが、撮影時の様子を 独り語りしている。そこで、誰かが「で、取材に来たタレントって誰だった?レポーターのひと?」って聞くと、物凄い滑舌とハリのあるいつもの声で、

「わたしはよく知らないんだけど有名なタレントさんみたいで・・・ た ま ぶ く ろ き ん た ろ う さん という方でした!」

と、何の躊躇も恥じらいもなく言い放ったので、その場に居た全員が度肝を抜かれて 箸を止め フリーズ。しかも きんたろう、じゃなくて すじたろう なのに。「そのひと、すじたろう って読むんだよ」って教えてあげると、「えーーー!だって台本見たら、筋肉の筋の字だったから、てっきり た ま ぶ く ろ き ん た ろ う さんだとばかり思ってました!」「彼は た ま ぶ く ろ す じ た ろ う だったんですね!」って、また躊躇なく 大真面目な顔で玉袋、玉袋、玉袋、玉袋と連呼するものだから、可笑しくて皆で笑い転げた。彼女は、玉袋が玉袋であることに気づいていない。ふつうに「池袋」とか「沼袋」のような、あるいは「舞城王太郎」のような ひとつのネイム、という認識しかないようである。「玉袋筋太郎」という芸名にあまりにも品がなさすぎるため、彼がNHKに出演する際には「知恵袋賢太郎」とテロップが出ることになっているのに。でも、玉袋の正式名称なんて「キン」なのか「スジ」なのかわからない女の子に生まれてきたほうが良かったのかもしれない。袋といえば、町田康布袋寅泰に殴られたとき、町田康はずっと布袋のことを 伏字表記するために「H袋」って 書いてた。それをワイドショーのアナウンサーが「エッチぶくろ」と読み上げていた。「袋」と名のつくものに トラブルは付き物なのだろうか。

夜は急遽 近所にある大学時代の先輩のお店で 大学時代の友人と呑むことになる。WRとテツオとわたし。話題は 麻生と政局と宗教と家族と器と金と友情と恋愛のこと。テツオは新聞記者なので、時事問題に死ぬほど詳しく、いつも多忙を極めている。この夜の数時間だけでも携帯は容赦なく鳴り響き、業務の進捗のメールもバシバシ入る。・・それにしても、やたらメール件数が多いなぁ、と思っていたら、時事通信かどこかが配信している「ケータイ版・ニュー速サイト 100円/月」に加入しているらしく、その速報が絶え間なく届いていたのだった。メール着信音が鳴るたびにチェックしては「わっ 熊本で地震だって」とか「押尾学タイホ状請求だって、何これ何これ」と、最新情報をくまなくチェックしては、素人のように 一喜一憂している。記者なんだけど、要は 単なる無類のニュース好きだった。夏のハートランドは美味しい。ニュースの話が終わってからは、テツオ自身の近況に いつになく真剣に聴き入った。包み隠さず会話ができるひと同士が繋がっていられることは、それだけで満ち足りたことかもしれない。先輩のレゲエ調の風貌からは想像がつかない 手作りガトーショコラをデザートに頼んで、23時過ぎに解散。今夜が月曜でなければ良いのに。ふちが欠けた十三夜の月。夜空にすっぽりと嵌まりこんでしまった。

そうだ 今夜はそうそう、WRの仕事での昇格が決定したから、心の中でだけは お祝いだった。わーい!わい わい!WRは何処へいっても 大学生かニートに間違えられる風貌だけど、しごとが とても よくできる!わたしは カメラマンになって、素早く膝立ちをしたり 床に腹ばいになったりして、WRの輝ける姿を 四方八方から激写する(振りをする)。お祝いの夕食に、今度 ピーマンの肉詰め立食パーティーをしよう。