不在のまるい穴、祈り

地球上でいちばんかわいい子 まるみちゃんが、ついに入院・手術をするため、とちぎ県に旅立ってしまった。余程しごとを休もうかと考えたけれど、難病の子を抱えている今だからこそ、しごとを放り出すわけにはいかない。ブラックジャック先生に たとえ莫大な治療費を請求されようとも もういちどまるみちゃんの笑顔が見たいから!

日中は しごともそこそこに 病院に出す紹介状を書き、各方面に事務手続きの電話を入れ、きわめて多忙だった。ものいわぬままベッドに仰臥している まるみちゃんの顔を思い浮かべては、涙が溢れる。哀しみのあまり、頭の中に霧が立ち込めたようにぼーっとしながら何とか会社でのしごとを終えるが、こんなときに限って若干の残業の必要があり、一刻もはやく家に帰ってまるみちゃんを病院に送り出してあげたい気持ちと、まるみちゃんと離れ離れになってしまうなら家に帰りたくないと思う気持ちで、どうしていいかわからず心が引き裂かれそうになる。帰路、家の近くにある 小中学生が喜びそうな可愛いものが沢山売っている可愛いもの屋さんで、まるみちゃんが喜びそうないちご柄のタオルケットを買ってかえる。そういえば わたしが小さかった頃も、何度も病院に入院をして、そのたびにママが可愛いパジャマや可愛いスリッパを買い揃えてくれたのだった。

家に帰ると ベッドに寝ているまるみちゃんの周りに ねこちゃんやドアラが集まっていた。まるみちゃんのいつもの「おかえりなさい」が 聞こえない。WRはしごとで遅くて見送りに間に合わず、残念だ。まるみちゃんを いちご柄のタオルケットに包んで、病院行きの担架箱に入れてあげる。お医者さまに渡すお手紙も入れる。まるみちゃんが、どんなに大事な子か、家族のみんながどれだけ心配しているか、お医者さまにちゃんとわかってもらえるように、まるみちゃんについての色々なお話を文章にして したためてある。

宇宙船のような担架箱に入れたまるみちゃんを、丁寧にビニール袋でお包みして、それから頑丈な旅行鞄に入れて、救急車が迎えにくる近所のローソンまで連れて行く。ねこちゃんとドアラちゃんが 泣き喚きながら追いかけてくる。泣いても、泣いても、もう行かなくちゃ。もっと一緒にいたいけど、まるみちゃんが 早くたのしいお家に戻るためには、早くここから出なければいけない。

ローソンで、旅行鞄のうえにまた頑丈なビニール服ををかけてもらって、とちぎ県まで行くまるみちゃんの安全を 完全に完璧に確保した。こんなに小さな病気の子が、たったひとりで とちぎ県まで。病気になる直前まで、「夏の思い出 ありがとー!」とさかんに口にしていた 心優しいまるみちゃん。夏が 秋の気配に押しやられていくのと一緒に、まるみちゃんもいなくなってしまった。家のなかは、がらんとして暗い。まるいものを目にするたびに、まるみちゃんのことを思い出してしまう。まるいお皿。まるいパン。まるい時計。まるい髪飾り。まるいクッション。WRなど、財務表の円グラフを見ながらでさえ、まるみちゃんのことを思い出していた。世の中は なんとまるいもので溢れていることだろう。こんなにまるいものだらけなのに、まるみちゃんがいない。



↑まるみちゃん、意識不明の重体(「くるしいヨ・・、でも がんばるモン・・・・」)



↑担架箱に入れられた まるみちゃん 泣きながら箱に追いすがる残された者たち



↑とおい いずもっこの町から イトコのききちゃんもお祈りを している

「かみさま まるみちゃんが どうかげんきになりますように!

ききちゃん、もう いっしょう おやついりませんから、どうか まるみちゃんを げんきなまるみちゃんに もどしてください!

おべんきょうも、おてつだいも、いっぱい いっぱい がんばりますから、おねがいします!おねがいします!!!」