骨のための練習曲

まるみちゃんが旅立ってから、24時間が経過した。心にポッカリと空いたまるい穴は、どんどん大きくなるばかり。会社では相変わらずZさんが、咆哮ののち 大暴れを している。彼女との接触を避けても避けても、天災的にこちら側にも降り注いでくる彼女のヒステリックな言動や狂喜乱舞に、わたしは心底辟易している。けれど、こんなことでは まるみちゃんのいない悲しみになんか、とてもじゃないけど太刀打ちできない。まるみちゃんをかわいそうに思わないで済むほどかわいそうな出来事を、誰かわたしにどうか下さい。

まるみちゃんは、とちぎ県の病院に着いたらつぶさに到着の一報が入ることになっている。なのに連絡は未だ来ない。今頃 いったい何処にいるの?薄暗い倉庫や荷台の中でひとりぼっちでまるくなっているのかもしれない、まるみちゃんが!と、悪い空想を巡らせて、自分で自分の胸をしめつける。あの担架箱に、誰か付き添いのおともだちを入れてあげればよかったのだ。

「かわいい子には旅をさせろ」っていうけど、かわいい子にさせなくてはならない旅は、かわいい子のためではなくて、かわいい子をかわいがるひとのためであるのだ、と、はじめてわかった。旅の途上のかわいい子を想うことは とてつもなくくるしいことだ。それから かわいい子のなかに存在していた 旅立ちの願望を認めることも。


かつてきれいだったものが、今 とてもうつくしくなく風化するので、
繭の裏側の世界に帰属する
光と埃に身を沈める

存在しない思い出の探求、臨場性の排除 記憶の創造的な改変 思い違えと冒涜
実践的日常のために施行されるあなたがたの周到な配慮

88鍵が解剖を欲求している 外科医の冷酷さを待ち望んでいる

あのとき もっとも先鋭に接近したのはわたしだったのに


秋が片足でやってきているよ、見え透いた対位法にどうか騙されませんように。まるみちゃんが栗ひろいに行けますように。