美しいひと

先週、会社で 美しいひとに会った。有名な演奏家の女性。以前、コンサートの仕事で そのひとの演奏を聴き、舞台袖ですれ違ってご挨拶したとき、そのひとはとうぜん演奏家のドレスに演奏家のヘアメイクをしていて、まるでCDジャケットの写真で見るのと同じように きれいだったけど、打ち合わせの為にわたしの会社に現れたその日は、ふつうの服を着て、ふつうのヘアメイクで、ふつうのひとの顔をしていた。それが、見惚れるくらいに美しかった。胸があまりにもドキドキしすぎたせいで、ご挨拶の声が小鳥のように震えてしまった。きれい。いい香り。楽器なんか持ってなくても、まるで 音楽みたいに美しいひと。きれい。可愛い。きれい。すてき。


顔やスタイルがせいぜい十人並以上で、後は単に有名大学出身だとか、難関資格を持っているとか、日本を代表する企業にお勤めしているとか、たったそれだけの理由で「才色兼備」みたいに扱われているおんなのひと、又は自分で自分をそうだと思い込んでしまっている世の中のおんなのひとたちって、いったい何なんだろう、と思ってしまう。外見しかないモデルや女優も何なんだろう。世の中の単純にして巧みな嘘が、一瞬で瓦解されるようなきれいさだった。その日 会話した美しいひとは、物事の追及の方法が ほんとう素晴らしく美しい。ほんとうに美しいひとを知ったあとは、美しい や きれい を、簡単には云えなくなっちゃう。だって、そんな無責任な美しいやきれいは、あのひとの美しさを損なってしまうような 気がするもの。

美しいひとは、病的なところがひとつもない。物思いは深くても、空洞がない。空っぽの部分が全然ない。美しいひとは、とても人間的であるような気がした。きれい。かわいい。きれい。何日も経つけどまだちっとも忘れないよ。きれい。